マガジンのカバー画像

純喫茶リリー

31
「純喫茶リリーへようこそ。 懐かしくてちょっとビターな日常を綴ります
運営しているクリエイター

#保育園

20.変な名前? /純喫茶リリー

ママの言うことは絶対。 だから、律子は「今日からもみじ保育園に行け」と言われたら、他の選択肢なんてなかった。 けやき保育園に戻りたかったけれど、それは許されないのだ。 新しい保育園では黄色いかわいい帽子じゃなくて、青くてダサい帽子をかぶることになった。 初日、いきなり知らない子たちの前に立たされ、 「今日からおともだちの “おうろりつこ”ちゃんでーす!」 と紹介された。 みんなの前で突然「おともだち」って言われても、 今日初めて会ったばかりで友達なわけがない。 心の中で「勝

19.転園〜アウェイ戦の洗礼/純喫茶リリー

新しく通い始めたもみじ保育園は、喫茶リリーから歩いて行けるくらいの距離だった。 だからママは突然転園させたんだって、律子は何となく理解した。 お迎えも、ここでは夕方には来てくれるようになった。最初のうちは。 保育園が終わると、律子は直接リリーに戻って、お店が終わるまで過ごしてから帰るのが日常になった。 前のけやき保育園には、赤ちゃんの頃から通っていて、他の誰よりも長い時間を過ごしてきた。 だから律子は、先生とも一番仲が良くて、誰よりも園のことを知っていると自信を持っていたし

18.突然のサヨナラ /純喫茶リリー

けやき保育園の年長さんだった律子。 ママのお迎えが遅いから、いつも一番最後まで残ってた。 ママのお迎えが遅いから、いつも最後まで残る常連だ。 その律子を、パートの野田さんがよく面倒を見てくれていた。 律子はずっと、野田さんのことを「おじさん」だと思ってたけど、ある日、何かの拍子に女の人だって知ってしまった。 「えー!野田さんって女だったの?」 律子が大声で叫ぶと、その場の空気が一瞬で凍った。律子はそんな雰囲気に気づくことなく、いつも通りの調子だった。 野田さんは、園児た

16.嘘のはじまり /純喫茶リリー

律子が覚えている一番古い記憶は、けやき保育園の屋上だった。 0歳から通っていたこの保育園には、広々とした屋上があり、みんなでよく遊んでいた。 年長さんになった律子は、同い年の男の子3人、女の子2人と一緒に話していた。たぶん、初めて友達とちゃんとした話をした瞬間だったから、今でも覚えているんだろう。 その時、男の子の一人がこう聞いた。 「みんな、お母さんのこと、なんて呼んでる?」 「ママ!」 「うちもママ!」 「オレ、おかーさん!」 「ぼく、ママ!」 ――みんなが次々に答えた