ある日常⑦
私達はいったい何を探し求めているのだろうか。
命をかけて地球を出奔したことは本懐だったのだろうか。
遺された森機関士の日記帳には
3歳年下の妹であるさと子さんとの日常が淡々と記されていた。
八月×日
紅いほおずきをひとつふたつもぎった。
さと子にあげる。
文机で九九の繰り返しをする。
駄菓子屋でニッキ水を二本買う。
畳の上にはばあちゃんが昼寝していた。
縁側でさと子とニッキ水を飲む。
この後、
父や母の忘れ形見だったさと子さんも病に倒れる。
D51は、
重力波に逆らうように突き進もうとするが、窪みに光速で突入、
指数関数的にインフレーションを引き起こした。
そのため、
非常に大きな命数により我々の想像をはるかに超える鬨の声が銀河を揺るがす。
操り人形のように私たちは鬨の声に翻弄される。
―――燃える火を雪が消し、
降る雪を火が消すともいわれているように『消滅と生成』を繰り返すのは自然の摂理なのだ。受け入れなければならない……
―――自分の観念のみで世界をさ迷い続けている輩がいる。まるで全身が感覚受容器のようになり、禍となり果てて朽ちていったミクロコスモス。しかるに『人間』とは弱い存在である……
―――『生の絶対的肯定』を受け入れなければならない由縁は、ここにある。時間には、過去も未来もない。あるのは無秩序である。どんなことがあろうが死を、恐れてはならない……
―――過去は追ってはならなず 未来は待ってはならず
ただ現在の一瞬だけを 生きるのである……
途切れ途切れに、
我々の生体四元素を無機質な響きが通り過ぎていった。
「コレガ ゼンチゼンノウ ノ アルファ デアリ オメガデアル」
これは真理であり定言命法として無条件に我々に備わっている
アプリオリなのであると、一等機関士はいった。