夢を歩く #4
演出を始めたはいいが、戸惑う事だらけだった。
私がいたジブリは、デジタルになってもセル時代の手法で作っていた。
でも、他の会社はデジタル対応&合理的な手法が当たり前。歩きを全て必要分、何歩でも描くなんて事はしないのだ。2歩だけ描いて使い回す。省力化だ。
戸惑ったのは作画だけではない。
演出は様々な部署と打ち合わせがあるが、どこに何を伝えればいいのか、わからない。結果、これを言っておくべきだったと気づくのは、打ち合わせが終わった後だ。
「女性の演出さん、初めてです」
打ち合わせ時に言われる事があった。私が説明しているのに、隣の男性制作とだけ話をするアニメーターさんもいた。
無視される演出。終わった後はどっと疲れた。
しどろもどろの打ち合わせもあった。初めての美術打ち合わせだった。
監督にくっついて出席するだけのはずだった私は、美術打ちって何をするんだろう? と、のんきに構えていた。ところが、当日監督が来ない。
「じゃあ、佐藤さん、お願いします。」
と制作に振られ、うろたえた。
「あー、……はい」
美術打ちで何をすべきか分からないのに、ろくにできるはずもない。美術監督を前に、ボソボソと説明をした。
「えーと……これは空に雲がBookで引きます……」
「……」
長い打ち合わせになった。
それでも、画面作りに関わる部署なら、まだ馴染みがあった。
音響や編集は、演出をやらないと経験しない部署だ。相手に何を聞かれてるか分からない。指示の仕方も分からない。的外れな発言をして呆れられた事もある。
相手が自分の仕事をするために、画面の何を気にするのか。
体当たりで覚えていった。
収入は減った。このままだと、あと数年で貯金が尽きる、とファイナンシャルプランナーに告げられた。赤字だったのだから、当然だ。
アニメは単価が安いので、収入を増やそうと思ったら、数をこなすほかない。
しかし、いちいち「これでいいんだろうか?」と疑いながらやる仕事は、時間がかかる。会社を辞める前から不安だった「TVシリーズのスピード」についていくので精一杯だった。
他の仕事をすることも考えた。絵を描かない仕事とか、描いたらそれが富を生み出す、印税生活とか。
結局、手をつけても続かなかった。
そんな中、新しいオファーが来た。
オープニングとエンディングのコンテ演出。番組の初めにテーマソングと共に流れる、最後にスタッフをクレジットする、あのオープンエンド。番組に必ず付いてくる、作品の顔。
アニメーターの多くにとって、憧れの仕事だ。私も、いつかやってみたいと思っていた。曲に合わせて絵を考えるのが好きだった。
それなのに、私は引き受けるのを渋っていた。
そんなにたくさんできないもん。
できない言い訳ばかり考えていた。
5へ続く。
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