夢を歩く #9
監督仕事は、スタッフ選びからだった。プロデューサーに希望はありますか? と訊かれたが、お任せした。
スタッフが決まり、スタジオを訪問して部署ごとに挨拶している時だった。
撮影部の女性に、私も演出志望なんです、と打ち明けられた。
「でも、女性の演出さん、少ないんですよね……」
彼女は演出になるにはどうすればいいのか、迷っているようだった。
「それに、作画出身の方が多いじゃないですか」
確かに、作画出身なら、シートは読めるし動かすコツもわかる。が、作画出身だと、作画の事しかわからない。
制作部出身なら制作全体の流れを知っているし、撮影なら画作りの最終段階を知っている。それぞれ強みがある。
撮影部にいるなら、画作りに必要なものすべてが見られるのは、演出仕事に役立つよ、と伝えた。
同じ頃、私のツイッターアカウントにDMが届いた。アメリカでアニメーターをしている日本人女性からだった。
「私も、将来、演出・絵コンテ志望です!」
「アニメーターから演出になった佐藤さんの流れは、まさに夢の道なんです。」
夢の道かぁ。
私は人の憧れの道を歩んでいるんだろうか。
今まで自分の事で頭がいっぱいで、自分が人からどう見えるか、考えた事もなかった。
私は、演出はチャキチャキした兄ちゃんがやるものだと思っていた。私には向いてないのだと思っていた。手本になるような女性の演出もいなかった。
後輩の女性たちが演出をやりたいと言える理由のひとつに、自分の存在があるのなら、とても光栄だ。
1人で山を登ってきたつもりだった。でも、後ろに続く人がいる。
10へ続く。次回、最終回。
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