見出し画像

花火と椿の花言葉-①

私は東京タワーが嫌いだ。

特に夜の東京タワーが嫌いだ。

空っぽの私を嘲笑うように、何も武器を持たない私を見透かすかのように、深夜でも煌々と光を放つあの存在が苦手なのだ。

麓を歩くと何も悪いことをしていないのに、自分の悪事を見破られたような気分になる。

普段は埋もれているが、日が落ちると部屋のベランダからほんの少しだけ見えるのも今は私を億劫にさせる。目の前の黒いカーテンを夜に開けたのはどれくらい前だろうか?

当時の私はなぜ、こんな無機質な造形物に恋心とも言える特別な感情を抱いていたのか。

思い返してみれば、学生時代、東京タワーは憧れの象徴だった。
夢を持つ人間が集う場所、東京。この響きだけで心が躍った。
あの街にはきらきらしたものばかりが溢れていると思っていた。

何より、この国の中枢を照らす赤い光は、いつだって私にとっては希望だった。

そんな気持ちで上京し、そして数年が経った。
かつての希望は、今となっては単なる風景の一部と化した。
いや、あえて言うならば「現実・日常の象徴」となった。

いつかのイメージのように、その底なしのキラキラが集う場所のシンボルだとしても、こうも毎日見ているとありがたみも何もない。
「実際はもっとくすんでいるのにね。」
不意に出た乾いた本音は、都会の湿気に姿を変えた。

今日もあの赤い光に導かれるように帰路につく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?