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花火と椿の花言葉-③ 【完結】

しかしその次の満月の夜から、彼は姿を見せなくなった。

藤和恭太という名前しか知らない私にとって、彼が現れないということはもう会えないということに等しかった。
実際、あの花火大会からちょうど一年経った今も彼には会えていない。

やっぱり現実はファンタジーにはなり得ない。彼が愛した映画や文学の中で描かれるほど綺麗なものなんて現実には存在しない。

私のこの想いも、名前のように花のまま咲いた途端に散ってしまうんだ。いや、咲いたところで私の椿はどうせ実を付けないのだから、取り返しがつかなくなる前に朽ちてしまえ。
「儚く、咲いて、散っていけ。」
私は所詮椿の花なのだ。この名前を親に付けてもらった時点で、そこらの人間と同じように恋なんて出来やしない。

「儚く、咲いて、朽ちてゆけ。」
東京に憧れてこの街で息をしているんだろう。どうせなら壊れるくらいこの国の中枢で足掻いてやる。座右の銘はいつからかこの言葉になっていたんじゃないのか。

私にとってこの街は、まだまだ憎くて、哀しくて、愛おしい。
だけど、目の前の造形物は今日も眩しい光を放っている。
今日も私を嘲笑うかのように、目が眩むほどの赤。

そういえば彼に会うとき、毎日東京タワーが点滅していなかったな。

思い出した。彼がいつも言っていた言葉。
「大好きな椿の花だけは、小さくても必ず見つけられるんだ。」

彼はこんなちっぽけな私を上空から見つけてくれたんだ。

あ、そうか。彼の名前に耳馴染みがあったのは毎日口にしていた言葉だったからなんだ。

「ねえ椿、置いていくよ~!」
彼に会わなくなってから、友人との波長も最近は徐々に合ってきた。

2人で歩くこの道を、今日も赤い光は頭上から照らしている。
今日もまた私のことを笑っているんでしょ。

単なる通行人Aとのラブストーリーなんてこっちから願い下げだ。
私は私の手で幸せを掴んでやる。

「ハッピーエンドなんていらない。」

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