性暴力被害への無知と偏見がセカンドレイプを生む 被害者のためにすべきこととは

初出:wezzy(株式会社サイゾー) 2021.09.10 11:00

 性暴力被害者に対し、「あなたにも責任がある」「加害者は悪気がないので許してあげて」など、被害者が責められたり、不適切な言動で傷つけられることを「セカンドレイプ(二次被害)」と呼ぶ。

 冒頭のような言葉の暴力性は徐々に知られつつあるが、「早く忘れた方がいい」「モテるんだね」といった、一見、励ましやアドバイスのように聞こえる言葉を、悪気なく言ってしまった経験がある人もいるかもしれない。しかしこれも、被害者を苦しめる言葉だ。

 セカンドレイプが被害者にどう影響を与えるのか、セカンドレイプをしないためにどう気を付ければいいのか。臨床心理士・公認心理師で目白大学心理学部専任講師の齋藤梓先生に話を伺った。

齋藤梓(さいとう・あずさ)
臨床心理士、公認心理師、博士(心理学)。 上智大学卒業後、上智大学大学院博士前期課程、同後期課程に進学、臨床心理学を学ぶ。臨床心理士として精神科クリニックや感染症科(HIVカウンセラー)、小中学校(スクールカウンセラー)に勤務する一方で、東京医科歯科大学難治疾患研究所にて技術補佐員としてPTSDに対するProlonged exposure therapyの治療効果研究に携わる。 2008年からは、公益社団法人被害者支援都民センターにて殺人や性暴力被害等の犯罪被害者、遺族の精神的ケア、およびトラウマ焦点化認知行動療法に取り組んできた。 現在、目白大学心理学部心理カウンセリング学科専任講師として教育と研究に携わりながら、被害者支援の実践も継続している。

セカンドレイプも深刻な被害


——まず、「セカンドレイプ」とはどう定義されるのでしょうか。

 前提として、「二次的被害」や「二次被害」という言葉があり、それは性暴力に限らず、犯罪や事故の被害者やご家族に対する不適切な言動などをさします。中でも特に性暴力に関する、捜査機関や周囲の人々からの不適切な言葉がけについて、「セカンドレイプ」という言葉で表現されることがあります。

 そもそも二次的被害は、捜査機関や支援機関で被害者が非難されるなど、適切な対応をされなかったり、理不尽な扱いを受け二次的に傷つけられることが起きていることから生まれた概念です。

 現在はセカンドレイプというと、捜査機関や支援機関に限らず、周囲の人間やSNS上、メディアなども含め、様々な場面で性暴力被害を受けた人を責めたり、無理解な発言をしたりすることを示していますよね。また、被害者ではなく加害者に焦点を当てるべきという視点から、「二次加害」という言葉も日本では使われています。

——「セカンドレイプ」にはどのような種類がありますか。

 種類の考え方はいくつかあります。例えば二次被害を与える人や機関で分ける方法です。

 先ほども述べましたが、セカンドレイプをする具体的な例としては、捜査機関で性暴力被害への理解のなさから誤った認識をされ、不適切な扱いをされたり、支援機関に理解がなく適切な支援をされないということがあります。そして、家族や友人、恋人、学校の教師など身近な人やSNS上、加害者や加害者弁護士からセカンドレイプを受けることがあります。

 内容としては、「被害者にも責任がある」「被害者も悪い」「嘘をついている」など被害者を責める、非難する言葉や、被害そのものや被害者の言動を嘘ではないかと疑うこと、無神経な扱い、励まそうとして理解のない発言をするなどです。

——性暴力被害者の中には「セカンドレイプの方が辛かった」と語る人もいますが、「セカンドレイプ」は被害者にどのような影響を与えますか。

 性暴力被害に遭うと、社会への信頼感や、他人への安心感を失ったり、自分を責めたり否定したりする気持ちが生じます。セカンドレイプはそれらを強め、被害回復を阻害してしまうのです。

 相談した相手に責めるようなことを言われてしまうと、支援機関に繋がることも難しくなり、社会や人への信頼感を回復できず、自責の念が高まり、自分への否定的感情は強まってしまいます。

セカンドレイプの背景にある無知と偏見


——セカンドレイプが起こってしまう背景には何があるのでしょうか。

 まず、性暴力被害の実態を知らないことが理由だと考えています。性暴力がどういうもので、どう発生するのか、被害者がどれくらい傷つくのかを知らないがゆえに、「大したことではない」「あなたが悪い」と言ってしまうなど、被害者を非難したり理解のない対応をしてしまいます。また、同様のことではありますが、「肌を露出した服を着ていたから襲われた」「レイプとは夜道で見知らぬ人から襲われることである」といった「強姦神話(レイプ神話)」と呼ばれる、性暴力に関する誤った認識が根強く社会に残っていることも原因の一つです。

 被害実態を知らないことは、他の犯罪被害とも共通する部分はあると思うのですが、性暴力に関しては、背景にジェンダーや性に関する偏見もあるのではないでしょうか。例を挙げると、「男性と一緒にお酒を飲んだなら性行為OKだと思われても仕方がない」「露出が高い服装をしていたら誘っているのと同じこと」などです。

 たとえば、ハロウィンの時期の渋谷では以前、痴漢被害が話題に上がりましたが、被害女性に対して「そんな格好するから」という意見が見られました。恐らく男性が露出の多い格好をして痴漢被害に遭ってもそんな言葉はぶつけられないと思うのですが、「女性は露出の多い格好をするなら性的に見られて当然」という思い込みがあると感じられます。

 なお、性暴力被害に遭うかどうかに肌の露出度は関係ありませんし、加害者には「抵抗しなさそうな相手を選んだ」と証言する者もいます。

——被害者に落ち度があったとする発言だけでなく、「警察に相談すれば良かったのに」といったアドバイスや、「あなたが魅力的だったから」など、一見、被害者を褒めるような発言もよく目にします。

 こうした言葉も被害者を傷つけます。「一緒に警察に行こう」といった寄り添う発言ではなく「警察に行けばよかったのに」と、背後に「なぜ行かなかったのか」という考えがうかがえるような発言をする人も多いのですが、被害者からしたら警察に行けるならとっくに行っています。拙著『性暴力被害の実際』(金剛出版)で行った調査では、警察に被害を届け出た件数は2割程度でしたし、内閣府の調査では5.6%でした。

 被害者は元々自分を責めている傾向が強いうえ、「警察に行けばよかったのに」と言われると「自分がどれだけ傷ついているか理解されてない」と感じ、「やっぱり私が悪かった」「他人は自分の気持ちを理解してくれない」となり、気持ちが落ち込んでしまいます。

 さらに顔見知り間の被害ですと、「被害を訴え出ることで、自分がそのコミュニティにいられなくなったり、あるいはコミュニティにダメージを与えてしまうかもしれない」と思い、言い出せない人も少なくありません。そういった様々な葛藤を軽視した発言です。警察に行けない人が大半であることや、警察に行けない背景を知っていれば「警察に行けばよかったのに」という言葉は出てこないでしょう。

 「あなたが魅力的だったから」といった発言も、性的魅力の話をしているのではなく、深刻な被害経験であることを理解していません。こういった発言も的外れなアドバイスと同じように、被害者からしたら自分の感情を理解されていない出来事で、さらに傷つきを深めてしまうのです。

 また、「挿入されなくてよかった」「ただのセックスだと思って忘れよう」などと被害者を励まそうと思って言葉をかけるケースもありますが、これらも被害者を傷つけます。挿入されてなくても被害を受けたことに変わりないですし、性暴力はセックスとは全く違います。そして、その暴力を忘れられないから悩んでいるのです。

 良かれと思って送ったアドバイスや励ましが、余計に被害者を傷つけ、回復の妨げになる恐れがあることは覚えていただきたいです。これらは露骨な非難ではないので「悪気はなかった」「傷つける意図はなかった」と弁解される方もいるのですが、典型的な二次被害となる言動です。

——最近は露骨なセカンドレイプは減ったように感じるのですが、今でも非難されたり責められたりする被害者はいるのでしょうか。

 確かに10年前、20年前と比べれば状況は改善されています。ですが、依然として様々な文脈で「自慢なの?」「モテるってことだよね」「ついていったあなたが悪い」などの二次被害を受けている人は多いです。

 大学で授業をしていると、学生たちから性暴力被害の実態や、どういった言動が傷つけるかを「知らなかった」と言われることは少なくありません。まだ世間一般に十分認知されているとは言えないでしょう。

「何かしてあげなきゃ」と背負う必要はない


——セカンドレイプをしてしまわないためには、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか。

 まず被害の実態を知っていただくことが重要です。性暴力被害はどのように起きて、どれくらい深刻なものなのか。イメージではなく、事実を知ってほしいです。

 また、もしもあなたの身近な人が、自分の被害について話そうとしているときは、まずは黙って耳を傾けていただければ、と思います。目の前に傷ついている人がいると、「何かしてあげたい」という気持ちから安易に励ましたりアドバイスをしたりしてしまいがちですが、結果的に被害者をより苦しめてしまいます。被害について相談することはとても勇気のいることなので、「話してくれて有難う」と傾聴し、そばにいるだけで十分に支えになることを覚えていてほしいです。

——確かに、「助けになりたい」という思いから、励ましたりアドバイスしてしまう人は少なくないのかもしれません。

 身体だけでなく、心の傷に対しても、専門家のケアや支援が大切です。被害者が一人で行動することが難しければ、一緒に精神科やカウンセリング、支援機関を探すのは有効だと思います。しかし、それでも相談に行くかはその人自身が決めることです。「何かしてあげなきゃ」と、相談された側が背負うのではなく、その人の意思を尊重していただければと思います。

 安易な励ましやアドバイスは、無力感の裏返しだと思うのですが、話を聴いたり、専門家を紹介することは十分に被害者の力になっています。

 性暴力に関しては、47都道府県にある「性暴力被害者ワンストップ支援センター」が専門の相談機関となっていますし、電話で話すことが難しければ、現在は内閣府の事業「Curetime」にてチャットで相談が可能です。

 残念ながら、まだ、精神科へのハードルは高い状況でしょうし、性暴力やトラウマを専門にしている専門家はあまり多くないので、自分に合う機関を探すことは大変ではあります。しかし、精神科やカウンセリングも、利用していただければと思っています。

~相談先~

■全国の性暴力被害者ワンストップ支援センター 全国共通短縮番号「#8891(はやくワンストップ)」

発信地の最寄りのワンストップ支援センターに繋がります。
ワンストップ支援センターの受付時間や所在地などを確認したい場合は、内閣府ホームページ内の一覧を参考にしてください。

※転載時追記
NTTひかり電話からかける場合など、一部かける番号が異なりますので、リンクをご確認ください。
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/seibouryoku/consult.html

■性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103(ハートさん)」
発信地を管轄する都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口に繋がります。

■内閣府 性暴力に関するSNS相談支援促進調査研究事業「Curetime」
月・水・土曜日の17時から21時まで、年齢・性別・セクシュアリティを問わず、匿名でチャットで相談できます。こちらは日本語のほか、10カ国語に対応しています。

※転載時追記
Curetimeは2024年1月9日現在、毎日17時から21時にチャットで相談を受け付けています。