「NO」と言える関係で付き合おう。 性教育YouTuberシオリーヌさんインタビュー
初出:wezzy(株式会社サイゾー)2020.01.06 07:05
助産師で性教育YouTuberのシオリーヌさんは、性について正しい知識を学ぶこと――性教育は、子どもたちはもちろんのこと「大人こそ重要なんです」と言います。
「セックスくらい普通にできるけど?」というあなたも、これを機に一緒に学びませんか?
シオリーヌ(大貫 詩織)/助産師・性教育YouTuber
総合病院産婦人科にて勤務ののち、現在は学校での性教育に関する講演や性の知識を学べるイベントの講師を務める。性を学ぶオンラインサロン「yottoko labo」オーナー。 YouTuberとして性を学べる動画をYouTube配信中 !
※前編はこちら
大人の性知識レベルは中高生と変わらない
——シオリーヌさんの動画の視聴者の男女比や年齢層を教えてください。
シオリーヌ:月経カップを紹介した動画をきっかけにチャンネル登録者数が増えたこともあって、活動当初は女性の視聴者さんばかりだったのですが、最近は男女比が半々になってきました。最近では、男:女=6:4の月もあります。
生理に関する解説は男性の視聴者さんが結構多くて、「生理のことちゃんと知りたいと思っていたけど、身近な女性に尋ねるとセクハラ扱いされることもあるのでどうやって知ればいいかわからなかった」とか「小学生の頃、女子だけが保健室に集められて何を話されていたのか、今になってようやくわかりました」とかコメントをくださる男性が多くいらっしゃるんです。動画を見て、「生理の大変さをわかったから生理中は彼女のことをより大事にしようと思いました」と言ってくださることもあります。
視聴者のボリューム層は10代後半から20代前半がいちばん多いのですが、65歳以上も3%ほど。また、YouTubeは13歳以下のユーザーはアカウントを取得できないのですが、親御さんから「親子で一緒に見ています」というコメントをいただくこともあります。
——10代後半から20代前半の視聴者が多いというのは、YouTubeというプラットフォームの特徴なのでしょうか。
シオリーヌ:この年代がYouTubeというメディアに親和性が高いユーザーであることは関係していると思います。あとは、中高生になってパートナーができたりと、性的な関係について考えることが自分自身の生活に含まれてくるような世代というのが大きいのかも。
——でも、大人にも見て欲しいチャンネルですよね。
シオリーヌ:正直、大人世代の知識も中高生のレベルとあまり変わらないのかもしれないという印象です。たとえば膣外射精を避妊法として行ってきて、たまたま危機をすり抜けてきたという大人もいますが、それはただの偶然なんですよね。むしろ、これからセックスについて学ぼうとしている中高生の方が、危機感が高いかもと感じることさえあります。
——自分の体のことを知るという意味でも、大人として子どもに伝えるという意味でも、大人がもっと性について学ぶ必要がありそうです。
シオリーヌ:私は助産師をやっていたのでたまたま専門知識がありますが、子どもたちから相談を受ける大人って、親御さんはもちろん学校の先生や塾の先生、バイト先の先輩など、医療職以外にもたくさんいますよね。
世の中の大人たちみんなに正しい性の知識があって、誰もが子どもたちの相談に乗れることができたらベストだと思うんです。まずは大人自身が知識の見直しであったり、性に対する価値観と向きあったりすることが必要ではないでしょうか。
――大人が子どもたちのためにアクションを起こすことは大切だと思います。
シオリーヌ:ただ、私は「子どもたちのために」と思って発信し始めましたけど、性について正しい知識を学ぶことは、じつは自分自身を大切にすることにつながるんですよね。子ども達に講演で話している時、自分自身に言い聞かせているような部分もたくさんあって、すごくエンパワーされるんです。
今の20代や30代って、子どもの頃から「他者の迷惑になってはいけない」とずっと言われてきているので、自分のために何かをするのが苦手な大人が多いのではと感じるのですが、自分のことを大事にするためのスキルが身に付けば、自己肯定感も自然と上がります。
——私自身もセクハラを受けて嫌な思いをした経験があるのですが、その時に自分の気持ちがうまく整理できなかったんです。シオリーヌさんの動画で「プライベートゾーンを尊重することが大切」という話を聴いた時、当時嫌だと思っていた自分の気持ちを肯定できてとても勇気をもらいました。
シオリーヌ:私自身、性教育の発信をしていることでよくセクハラに遭うんですよね。「セックスの実技指導をしてください」とか「マスターベーションしているところを見せてください」とか……。Twitterで男性器の画像が送られることもあって、DM(ダイレクトメッセージ)は閉鎖しています。
ただ、私はセクハラに迎合をしないということをすごく大事にしています。ライブ配信で嫌なことを言われたら「それは失礼ですよ」って、その場で言うようにしているんです。
――そのように言えたらいいのですが、セクハラに「NO」と言えない人も多いですよね。
シオリーヌ:私も、最初は勇気が必要でした。女性でライブ配信をやっているYouTuberはセクハラを上手く笑って流せる人の方が人気があるので、もし私がセクハラをうまく笑ってかわしたら、チャンネル登録者数も伸びるのかもしれないなと思うこともあるんです。
でも、私がセクハラを軽視するところを若い女の子に見て欲しくない。私がセクハラに対して「失礼ですよ」と意思表示している姿を見て、もし視聴者の子たちに嫌なことがあった時も「NO」と言っていい、言ってほしい、というメッセージを届けたいなと思っています。
もちろん若い子だけではなくて、視聴者の40代の女性から、「自分の権利というのを主張していいということが初めてわかって、心強くなりました。 自分に失礼なことをされたと言うことをきちんと表現していることに勇気をもらっています」というメッセージをいただいたことがあって。その時はとても嬉しかったですね。
——今までセクハラに「NO」と言える風潮がなかったのは、被害者が我慢していただけなんですよね。
シオリーヌ:大勢の飲み会に行くと、「シオリーヌがいるとこういうの(下ネタやセクハラ)は NGだよな」って茶化されることもいまだにあります。おいおいおいっと思って、「私がいてもいなくてもセクハラはダメだから!」といつも言うんですけど。
ただ、会社や大きいコミュニティだと、主張することで立場が弱くなってしまう人もたくさんいて、「NO」と言えない社会的な構造もありますよね。
——もちろん、女性だけではなくて男性も被害に遭うことがあります。
シオリーヌ:ありますね……もし私が飲み会の席でありがちな“童貞イジリ”を見かけたら、「性体験の有無でしか人の良さを測れないなんて感性の乏しい人ですね!」って言っちゃいます。
男性からも相談をいただくことは多いのですが、「20代後半になっても経験がなくてお恥ずかしいのですが……」という枕詞をつけている相談者さんもいます。なにも恥ずかしくないです。「こうあるべき」という社会的な抑圧のメッセージがまだまだたくさんありますので、それも払拭していきたいですね。
「NO」と言われることは信頼関係が築けている証
——シオリーヌさんがYouTubeを始めたばかりの頃の動画の質問コーナーで、女性の視聴者から「避妊や性感染症の予防としてコンドームをつけることに彼氏が協力してくれない」という悩みがあったことが印象に残っています。第三者の大人からすれば、「嫌だ」と伝えても協力してくれない、相手の意志を尊重してくれないパートナーとは別れた方がいいと思ってしまうところですが、感情的になりそうな相談にはどのようにお返事していますか。
シオリーヌ:相談に乗る時に気をつけていることは、「私の常識を押し付けない」ということです。私ができることは、自分の持っている専門知識を相手が理解できるレベルまで噛み砕いてお伝えすることまでで、最終的には本人の意思決定を尊重したいと思っています。
やっぱり、相談に乗っていると、長い目で見たら今のうちにお別れをしたほうがその子のためなんじゃないかな、と思うこともあります。けれど、パートナーと一緒にいたいと思う気持ちは本人のものですし、意思決定を代わりにしてあげる権利は私にはないと考えています。
よく「シオリーヌさんだったらどうしますか?」って聞かれるんですが、「私だったらこうするかもしれないけれど、あなたがどうするかはあなたが決めることなんだよ」と答えています。
——相談者が自分で考えられるような情報を伝えて、視野や選択肢を広げるということですね。
シオリーヌ:性に対して漠然とした不安を持った状態で相談に来る方もいるのですが、一番必要なのは、何が不安なのかを整理することだと思っています。避妊法に対する知識がないから不安なのか、病院に行くのが不安なのか、やるべきことはすべてわかっているけどパートナーと話し合えないから不安なのか……色々な原因があるので、まずは不安な状況を整理することが大切ですよね。
——避妊法について話し合うことも、パートナーとのコミュニケーションの問題が絡んでいますね。
シオリーヌ:やっぱり、話し合っていかないとわからないですよね。「理解してもらえなかったらどうしよう」とか「嫌われてしまったらどうしよう」とか、否定される怖さもあると思うんです。もし片方が勇気を出して「嫌だ」と伝えても、言われた方がそれを受け入れられない場合もあるでしょう。
なので私は、まずパートナーとのセックスの前提としてコミュニケーションの大切さについてもお話しています。もし相手から「嫌だ」と言われたとしても、それはあなたへの否定の言葉ではなくて、むしろ「嫌だ」と言える信頼関係を築けている証拠なんです。
——とくに若いうちには、他者に「嫌だ」と言うことも、他者から「嫌だ」と言われることも、苦手な人は多いかもしれません。
シオリーヌ:親子関係の中でも、相手の同意を得る練習はできると思っています。たとえば親御さんには「お子さんのオムツを替える時には許可を求めてください」という話をしていて。
オムツ交換をするってすごくプライベートなことなので、たとえお子さんが理解できない年齢であっても「オムツ変えてもいいですか?」とことわってあげることが大切だと思っています。
私が尊敬している助産師の先輩は、自分のお子さんにハグをするときに、「○○ちゃん、ぎゅーしてもいいですか?」って毎回聞いているそうです。たまに断られるそうなのですが、お子さんが「今はイヤ」と答えてくれると「そっか、教えてくれてありがとう、していいときになったら教えてね」というやり取りを親子でしていて。
——嫌だったら嫌と言ってもいいんですね。
シオリーヌ:自分の「NO」を受け入れてもらえる経験がすごく大事で、それは大人になってからも活きてきます。たとえばパートナーとのセックスもそうですけれど、「今日はちょっと…」って言ったときに相手が明らかに不機嫌になったり、気まずい空気が流れたり。そんな経験ばかりしていると「NO」とは言いづらくなっちゃいますよね。
断っても、断られても、相手に受け入れてもらえる経験を積み重ねることでパートナーとの信頼関係は深まっていくし、コミュニケーションへの恐怖心が取り去られていくのではないでしょうか。恋人間であっても友人間であっても親子間でもあっても、コミュニケーションの練習はとても大切だと思います。
※情報は初出掲載時当時のものです。