着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~②地のし
狂いのない仕立て上がりのために、アイロンなどを使って縦横の布目が正確に交わるよう整えることを「地のし」といいます。
布を構成している織糸が、例えば平織りなら、垂直に交差されている状態が一番安定している状態。
このことは歪みや狂いの少ない仕上がりにつながり、まっすぐ裁たれて、まっすぐ縫われて仕上がる着物にとって、大切な要素のひとつです。
地のしの手法は、素材だったり、持っている機材だったり、職人によっても様々ですが、わたしは業務用のスチームアイロンで整えながら、巻き棒に巻き取っていく方法を行っています。
スチームであらかじめ布を縮ませておくことによって
着用やお手入れ後に湿気を含んで縮んでしまうことによる寸法の狂い、
縮み率の違う裏地とのバランスが崩れてしまうなどの困りごとを、ある程度防ぐことができます。
はじめに、反物全体の長さ、巾を測っておきます。
地のし前に、反物の端から2尺(約76cm)の長さを測ったところで、巾の両端、中心に糸で印を付けてからスチームアイロンをかけてみます。
そのあともう一度同じ箇所を測ると、糸の位置がずれています。
糸印のずれた分が、縮んだ量になり、
この反物は全体でどのくらい縮むものなのかを把握することができます。
巾の寸法はほとんど変わりませんでした。
アイロンを駆使して、いろいろな手法で地の目を正して行くのですが、どうしても歪みが直らないものも。
そのような時には見映え重視で裁断させてもらったり、時間的余裕と身元がわかるものであれば前加工屋さんに再度修正をお願いすることもあります。
これらの作業をしながら
縦、横、それぞれスチームでどのくらい縮むのかを把握したり、
織難や汚れ、傷がどこにどのくらいあるのかを再度チェックして、柄合わせや裁断方法を考えていきます。
地のしが終わったら、巻き取った布が冷めて地の目が落ち着くまでそっとしておきます。
その間、カルテを作成します。
仕立ての指定事項や覚え書きなどをメモしたり、問い合わせたいことなども書いておきます。
寸法を書き取って確認したり、計算したりして目安になる設計図を完成させます。
相手は布なので、必ず計算通りになるとは限りません。その都度修正しながら完成されます。
このカルテは、次回お客様からの「こうしてほしい」というリクエストについて、どこをどの程度調整するのがいいのかを考える、有用な指標になります。
個人情報にも配慮して、手元に大切に保管しています。