きものの仕立てはなぜ手縫いがよいと言われるのか ② デメリット編
前回に引き続き、きもの暮らしの中でわたしが感じる「手縫い仕立て 」について。
今回は手縫いのデメリットと、ミシン仕立ては本当に早いのか、をテーマに仕立て屋目線から記してみます。
手縫いのデメリット
・厚い生地では縫い目が荒くなりがち
・縫い目と垂直方向への引っ張り時、糸が覗きやすい
・縫い目が華奢で弱いという先入観を持たれやすい
厚い生地では縫い目が荒くなりがち
三河木綿きもののお仕立てを受けたことがあります。
かなり厚手でしたが、木綿独自の温かさと、独自加工が生きた艶感が同居した、素敵な反物でした。
手縫いで仕立てましたが、その生地の厚みゆえ、細かい針目で縫うためには通常の運針では限界があり、急所や細かい針目が要求されるところは一針ずつ抜き差しをして対応しました。
手縫いの基本は「なみ縫い」。針と布を同じ面で重ねたところから布を上下に動かして、前進する針に串刺しにしていくイメージです。
なので、厚手の生地では針目を小さくすると針目の間隔が広くなります。
タオル地で雑巾を縫うとき、手で縫うと縫い目のピッチが大きくなってしまいませんか?
その感覚に似ていると思います。
こういった厚みのある生地で、普段着として洗濯を頻繁に繰り返すものや、引っ張りやよじれに比較的柔軟なジャージ生地、着心地よりもしっかりとした縫いの丈夫さが求められるデニムなどとの相性はミシン縫いの方がよいのかも、と感じています。
縫い目と垂直方向への引っ張り時、糸が覗きやすい
これはわたしのクセなのですが
着物を着たあと、おはしょりを整えるときに帯の下に指先を入れて横方向にしごき、着物のシワを取ります。
そのときに衽付けの縫い目が開いて縫い糸が覗くことがあるのです。
前回のメリット編で記したように、手縫いでは糸と生地を一体化させるために「糸こき」というひと手間をかけます。
糸はきつくないので、縫い目と垂直方向に強く引くと、縫い糸が覗くことがあるのです。
そんな時は、生地に無理強いをしている危険信号と捉えて、優しく戻しながら、自分の心も整えることにしています。
縫い目が華奢で弱いという先入観を持たれやすい
かといって、決して手縫いが弱いという訳ではありません。
手縫いの技法も多様にあり、一枚のきものの中にも
力のかかるところには負荷に耐えられるようしっかりと、起点となるところはピンポイントがずれないよう、生地を美しく支えるためにはおおらかに
など、それぞれの部位や役割に見合った技法が用いられます。
「丈夫さ」を考えるとき
つい「縫い」の強さだけに注目しがちですが、
「生地の強さ」
「生地と縫い糸の強さが同じか、糸の方が若干弱い」
を念頭に置くと、適切な丈夫さへの見極めがしやすいのではないか、と思います。
せっかくのお気に入り。
不意に引っ掛けてしまったときに
縫い糸が切れずに生地が破れてしまった時の絶望感といったら…ですよね。(笑)
「ミシン仕立て」は本当に早いのか
一般的にミシンを使った方が早く仕立てられると思われがちですが、ミシンを使いなれた一部の職人には当てはまるのだと思います。ミシンをさほど使いなれておらず、手縫いを生業としているわたしは、
ミシンを出し、針を選び、糸を選び、なければ下糸を巻いて、糸をセット、試し縫いと調整を何度も繰り返し、縫ったあとの出来映えが悪ければ時間をかけてほどいて手縫いで補い、大切な急所やくける部分は手縫いに切り替えて…。
それをしている間に縦縫いを何本か手で縫えてしまうので、トータル的にはそれほど時短にはならない上に、出来映えも良くない。
という結果になることが多いです。
よって、少なくとも手縫い仕立てを主とする職人にとってはむしろミシン仕立ての方が時間がかかるという声も、あるかもしれません。
手縫いは最高のオートクチュール
これは洋裁の世界で有名なクライ・ムキさんの言葉です。
「ミシンの歴史って、実は浅いのよ。
西洋でもミシンができる前は、ドレスも職人が手縫いで丁寧に仕立てていた。
だから今でもオーダーメイドの最高級ドレスは、繊細な加減ができる手縫い仕立てなの。きものだって、手縫いでしょう?
ミシンがこれだけ普及している現代でも、手縫いは最高のオートクチュールなのよ」
和裁ではない分野で活躍されている著名な方の言葉が本当にうれしくて。
手縫いにこだわりを持つ、
今日のわたしを強く支え続けています。