着物はこうして着物になる。~夏大島の場合~⑤へらつけ
の前に…。
和裁ならではの道具「こて」について、少し書きますね。
和裁での印付けには、「鏝(こて)」と呼ばれる道具で印を付けていきます。
いわば小さなコードレスアイロンです。
設定可能温度はおよそ140度から240度。手掛ける材質によって設定温度を変えます。といっても大まかなメモリのついたつまみやネジを回すだけなので、設定される正確な温度はわかりません。適温の判断は握りに伝わる温度や、水分が蒸発するときの音など、職人の肌感覚です。
鏝の金属部分はひとつひとつ手作りなのだそうです。
メーカーや作られた時代、職人さんによって、形状や厚み、重さが違います。
そして、一見平らに見える「かけ面」も、実は違いがあります。
現代のアイロンのように完璧なフラット状のもの、宇宙から見た地平線ような、ごく緩やかな球体になっているもの。またそのカーブ加減も違います。それぞれに使い心地がかなり違うので、新しい出会いは楽しいものですが、わたしなどは道具を変えると手が道具に追い付くまでとても時間がかかります。
一度絆が生まれると、手放せなくなるのですけどね。(笑)
道具の話はさておき…へらつけの話を。
きものは仕立て替えることが念頭に置かれるので、印付けに洗っても落ちないものは使いません。
へら(印)付けと縫いの手順はいろいろありまして。
・丈も、巾も、斜めも、すべて印を付けてから一気に縫い上げる方法。
・丈だけ印を付けて→縫い。そこから巾や斜めを図って印を付けて→縫い。を繰り返し進める方法。
・その中間の方法。
…など。
素材の性格や難易度、納品までの時間、その時の気分(笑)で選んでいます。
その時の気分って…と、思われますよね。
そのときの自身の体や手の調子は仕事に表れてしまうので、わたしにとっては実は重要だったりするのです。
今回は繊細だけど、意思がはっきりしている子。
なので、印を付けながら縫って行く方法で進めます。
へらつけ→縫い→へらつけ→縫い…を繰り返すこの方法。
先にすべてへらつけしたものを一気に縫う方法が主流だったわたしの修行先では「追いべら」呼ばれていましたが、東京の先生方には通じませんでした(笑)
よく調べてみるとこの方法、
和裁士会教科書の手順なので、これがスタンダード。本当は「追いべら」という別名などないのかも知れませんね。
へらつけ、
身頃は2枚重ねて。
内揚げの丈印と、上半身の印付け。
身幅は縫いながら付けていきます。
重なってもお互いを干渉しない生地(それが足さばきの良さにつながるのですね)なので、ずれやすいです。上半身のへらつけでは、2枚の身頃はお互いの肩山線を大きくしつけで綴じてから、へらつけをしました。
衽は身頃とつながる衽付け線をつけてから、裾で衽巾を、褄下で合褄巾をとり、ポイントだけに印を。
ついでに衿斜めの長さを図ってメモ。
今回は柄合わせのバランスをとるため、
衽にも内揚げをとることにしました。
そして衿のへらつけ!といきたいところですが…
衿斜めの長さはちょっとした布のよじれで変わってしまう寸法なので、実際に衿付けをする段階になってからもう一度寸法を測り、正確な数字が出てからにしたいと思います。
最後に袖のへらつけをして、
いよいよ袖縫いに入って参りまーすo(⌒―⌒)o