見出し画像

お金に興味がないって話(?)

「真さんって、何にお金使ってるの?」

 前に友人から聞かれて、ちょっと言葉に詰まった。
 実家住みの僕は普段、外出時の交通費と飲食代くらいしかお金を使わない。趣味の読む・見る・書くはほとんど身銭を切らずに行っている。もともと図書館派だし、弟の契約したアマゾンプライムで映画もアニメも見放題だし。

「ああ、一番は学費だ。物書き学校に通ってるから」

 そして学校の伝手で商業デビューして、受講料がちょっとずつロイヤリティで返ってくるようになった。

「アーチェリーとか本格的に始めたら弓具にいくらかけても足りないんだろうけど、本格的に始める気もないしなあ」

 先日、ATMで現金をおろしつつ記帳してみたら、自分の預金額にちょっと驚いた。週3日勤務の契約社員のくせに収入の7割以上が貯金されているのだ。まあ今の職場にいられるのはせいぜいあと2年で、先のことはまったく分からないが。
 僕は一人暮らしに魅力を感じない身体障害者であるため、次の仕事が決まろうが決まるまいが作家収入が増えようが減ろうが、実家を出ることはまずない。奇跡的にいい人が見つかれば話は別だけど、根が引きこもりで暇さえあれば小説を書いている僕にはそもそも出会いがない。積極的に相手を探そうとしないのはハンデのせいか、それとも性格のせいか。

 そんな中、父が唐突に言い出した。

「もう不動産の管理とか真に全部任せちゃえばいいんじゃない?」
「……は!?」

 母方の祖父が亡くなってから我が家は相続的なあれこれが大変らしいのだが、どうせ20年とか30年とか後に姉弟で同じ問題に突き当たるならばと、今から僕に振る案を思いついたようだ。祖父の所有していた小さなマンションの管理業務は、身内でも報酬を支払っていいくらい面倒くさいということで、物書き志望の引きこもりにはちょうどいい収入となるだろうと。

「僕に『バベル九朔』をやれと?」
「何それ?」

 万城目学が書いた小説、あるいは菊池風磨が主演を張ったテレビドラマである。
 物書き志望の主人公が、テナントビルの管理人に収まりのらくらと執筆に明け暮れる話――否、書けない内にパラレルワールドに迷い込むファンタジーだがそこは論点ではない。
 思いつきで適当なことを言う父の案が実現する可能性は極めて低いが、同じことを叔母辺りから頼まれたら自分はどうするのだろう……というのが、ちょっと怖くて想像できなかった。結局のところ僕の根っこは、大人になれない社会不適合者だから。

 社会不適合者といえば現在『デート』の再放送とTVerの配信をしているが、あれを見て高等遊民になりたかった時期が僕にはあった。
 ドラマの彼とは違い、当時の僕は内職だけはしていたし、車椅子ユーザーであるという正当な働けない理由もあった。小説家になりたくて創作に明け暮れていた。そこから契約社員の職に就き、商業出版を果たしても根本的なところは何も変わっていない気がする。

 段々自分が恵まれた環境に愚痴っているいいご身分であることに気付いてきたのでこの辺りでやめておくが、最後に僕の趣味の「読む・見る・書く」という語感から「飲む・打つ・買う」という言葉を思い出した。
 高等遊民は自身のことを「本当に金が掛からない男」だと話していたし、対義語といって差し支えない気がするのだがどうだろう?

いいなと思ったら応援しよう!