ソニーの悲願としてのNiziU
日本のレコード会社であるソニー・ミュージックと、韓国のプロダクションであるJYPの合同オーディション「Nizi Project」で選抜されたNiziUですが、どうしてもK-POP・JYPからの視点で語られることが多いので、ここは昭和のアイドル好きの使命感もあり、ソニーの視点から書いてみます。
Nizi ProjectのPart1、地域予選や東京合宿で課題曲として使われていたのは、JYPプロデュース曲のほか、中島美嘉・ JUJU・伊藤由奈・安田レイ・Uruなど、ソニー・ミュージック所属女性アーティストの楽曲でした。配信や将来的なソフト化にあたって権利を自社管理している楽曲の方がよい、という判断なのかもしれません(例えばTWICEを生んだオーディション「SIXTEEN」では、レディーガガやアリアナグランデなど課題曲に洋楽を使いまくりでしたが、今は公式には見られない状態ですし)。
Part2の韓国合宿に入ってから、JYPのメソッドの元でトレーニングを積み、JYPの楽曲を課題曲にミッションを重ねていくにつれ、このオーディションにおけるソニー・ミュージックの印象はだんだん薄くなっていきますが、プレ・デビュー曲「Make you Happy」をJ-WIDで調べてみると、出版者はJYP Entertainmentとソニー・ミュージック・パブリッシングの両方になっており、ソニー・ミュージックとJYPの合同プロジェクトという基本線は変わっていないものと思われます。
なぜソニー・ミュージックはJYPと組んで合同オーディションを行ったのか? それは、ソニー・ミュージックにとって日本人アーティストの海外進出が悲願だったから…だと思います。一方のJYPも、2007年にWonder GirlsでK-POPの海外進出の先鞭をつけましたが、現在はBig HitのBTS、YGのBLACK PINKに遅れをとっている状況ですし、更にJ.Y.Parkによれば「韓国人グループ(Wonder Girls)→韓国人&外国人の多国籍グループ(TWICE)→外国人のみのグループ(NiziU)」という3つのステップを10年計画で立てていたとのことで、日本人メンバーのみのグルーバル・アイドルグループを作ることは、ソニーとJYP、両者のメリットが合致したプロジェクトだったのでしょう。
日本の電機メーカーだったソニーが、アメリカのCBSレコードと合弁会社「CBSソニーレコード」を成立させたのが1968年。そこで、旧来のレコード会社による古い歌謡曲に対してCBSソニーが打ち出した新しい音楽の1つが「アイドル」でした。(「よい子の歌謡曲」史観では)アイドル第1号である南沙織をデビューさせたのが1971年。その後も山口百恵やキャンディーズと続き、そして1980年に「ミス・ソニー」として松田聖子がデビューし、空前のアイドル・ブームを引き起こします。90年代・アイドル不遇の時代にシーンを支えた「七つ星」の人たちや、今の坂道までも含め、日本のアイドルの節目には必ず、ソニーがあったと言えるかもしれません。
1988年、ソニーはCBSレコードを買収し、後にソニー・ミュージックテンタテインメントとなり、「ハード」と「ソフト」の両輪を更に意識していくことになります。そこでソニーは、80年代にウォークマンが世界を席巻したように、松田聖子を「SEIKO」として海外進出させることにチャレンジ。しかし結果としては成功といえるには至らずに終わります。
つまりソニーにとって、日本のアーティストが世界でも聞かれるようになることは、松田聖子以来、創業以来の悲願だったと言えるのではないか、と思います。
その後、インターネットによって、日本文化の海外進出について昔ほどの壁は無くなり、韓国では音楽や映画の海外進出が大きな規模で実現しています。そんな今、ソニー・ミュージックが創業以来の悲願である海外進出を再び目指すのは、当然といえば当然といえます。ちなみにソニー・ミュージックは男性アイドルでは、ジャニーズの中でも海外志向が強い山下智久やSixTONESと契約していますし、米津玄師の広告をNY5番街のユニクロに出したとゆーニュースもあったので、NiziUに限らずグループ全体の方針かもしれません。BTSやBLACK PINKがいるユニバーサル・ミュージックに対する覇権奪還の意味もあるでしょう。
もちろん、NiziUが真の海外進出を果たすには、まだまだ超えなければならないハードルもたくさんありますが、日本の我々が楽しんでるよーに、海外でも日本のアイドル・グループが楽しまれる状況が訪れる日がくることを、僕も願っています。
また個人的には、JYPの育成や楽曲プロデュースについては信頼している一方、ヘアメイクやスタイリングは、メンバーの個性に合ってないと感じることも多いので、そこは西野カナやYUI、坂道などで培ったソニーのノウハウを、NiziUでも活かしてもらえたらよいのに…と思ってたりします。