『君たちはどう生きるか』はどのようにして売れたか。
以前に『セミナーを考える』のnoteでも書きましたが、私は今、行政書士とは関係の無い場でのインプットの時間を積極的に設けています。
そこで先日、『漫画 君たちはどう生きるか』の作者の羽賀翔一先生とマガジンハウスの担当編集者の方が登壇するセミナーを受講してきました。
セミナーのタイトルは『生きることは考えること』というなかなか哲学的なところに焦点が当たっていたので当たり外れが大きそうだなと思いつつも、漫画家の羽賀先生と担当編集さんの生のお話を聞いてみたいと言う好奇心から受講を決意しました。
結果、行って良かったなと思える良い内容でした。
羽賀先生のお話や担当編集者さんのお話が、本当にどこを切り取っても面白くて勉強になることがたくさんあったからです。
この出版氷河期において200万部を売上げベストセラー入りした本作品は偶然売れたものではないということがよくわかりました。
時代が変わっても、消費者のニーズや考え方が変わっても、良いものは売れる。
しかし、どれだけ良い商品でも売るためにはそれだけの努力がいるという当たり前のことを改めて教えていただけました。
担当編集者の『想い』
この本の原作は戦前に書かれたとても古い本で、内容もイジメや道徳心というとても重くて真面目なものです。
担当編集者さんはもともとこの原作のファンだったそうです。
自分はファンでありながらも、今の人はこんな本は読まないだろう、薦めても刺さらないだろう、と最初は思っていたようでした。
ところが30代の若い編集者の男女それぞれにこの本を薦めてみたところ、「とても良い本ですね」との感想を得たことをきっかけにして以下のように意識が変わったそうです。
原作が書かれた80年前と今の『道徳心』に違いはあるだろうか?
言葉で表すならそれは同じなのではないか?
だからこそこの本は世代を超えて何かを伝えていける力があるのではないか?
そう気が付いたところからもっとこの作品を世に広めたいという想いに火がついて、漫画版君たちはどう生きるかの制作に取り掛かることにしたそうです。
作者の『生みの苦しみ』
担当編集者から、この小説を題材に漫画を描きましょうと言われて当初は1年をめどにスタートした企画だったが、それから大きく2年遅れての納品となってしまったそうです。
2年も遅れてしまった理由について羽賀先生はこのように語っていらっしゃいました。
漫画を描くというのは、原作をただなぞって描くのではない。
この作品を製作するにあたって一番苦労したのは、自分の経験と照合して作品を再構成していくという自分と向き合う作業だった。
時が経つにつれて埋もれていく記憶や経験、その時の感情を思い出してしっかり理解しながら自分の中にあるコペル君(本作品の主人公の名前)を探す。
原作の中のコペル君と同じ体験をしてはいない自分の記憶の中で、コペル君のこの時の感情に最も近いものは何だったか、それはどんな想いだったかを1つ1つ照合して検証していくという行為です。
とても大変な作業で、自分の中から全てのコマのコペル君を探すのに多くの時間がかかってしまい、気付けば2年が過ぎていた。
作品を作るのは命がけであるというような話をよく聞きますが、羽賀先生は本当に命を削って描いているのだなと感じました。
自分と向き合う作業というのは本当に困難を要するからです。
例えば私もこうしてnoteで様々なことを書くだけで、これほどの高度にクリエイティブな行為をしているわけでもないのに正直本当に自分自身と向き合うのが辛い時があります。
そうでなくても君たちはどう生きるかというこの作品は特に、テーマそのものが日ごろ一般的に目を背けている部分なのでここに向き合うのは並大抵ではないだろうなと察するにあまりありました。
しかし羽賀先生はこう仰っていました。
「こうして自分が実際に感じた切実な感情を作品として変換していくことで、ようやく相手に伝えられる何かが出来るのだと思っています。」
私ももっと自分の切実な感情をしっかり文字に変換出来れば、発信した内容が《自分には関係ないとくとめの話》としてではなく、《自分も当事者になりうる話》として読んでもらうことが出来るのではないかと思いました。
担当編集者の『戦略』
さて、本題です。
売りたい作品を売るべくして売った担当編集者さんが、この作品をどのようにしてベストセラーにしたのかについて語っていたことは『伝え方の大切さ』についてでした。
本を読まなくなった世代にこの本をそのまま出しても手に取ってもらうことは難しい。
ではどのようにしてみんなに読んでもらうか?というのを考えた時に、漫画化が最適であると考えたそうです。
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