018 公正証書遺言との比較
前回は、法務局における自筆証書遺言保管制度が開始されたことにより、自筆証書遺言の利用価値が高まっていることを述べました。今回は、公正証書遺言との比較について、述べたいと思います。私は、かれこれ20年にわたり相続に関する問題解決の仕事をしてきており、長らく(20年中19年は)公正証書遺言の作成を推奨してきました。それは、公正証書遺言を作成しておけば、間違いのない(瑕疵のない)遺言を作成することができ、相続開始後の円滑な手続きを期待することができると考えていたからです。しかし、いま、このスタンスについて少し反省しています。それは、遺言書作成においてご本人の意思を正確に反映できていたかどうかという点についてです。公正証書遺言を作成しようとしますと、その内容、文案を検討したうえで、戸籍謄本や不動産登記事項証明書等の必要書類を事前に準備し、公証人との打ち合わせを経て、公証人役場に出向き、公正証書遺言を作成します。この際には2名の証人を要しますが、この証人には一定の範囲の親族はなれませんので、親族以外の方も遺言書作成手続きに参加することになります。最初は、残される家族を思って、ご本人の意思により、遺言書を作成しようとされるのですが、いつしか、煩雑な手続きに流され、ご本人の意思を書き残すというよりは決められた手続きを懸命に進めていく、という流れになっていたことが多いように思います。ご本人とのコミュニケーションに時間をとってくださる公証人の方も少なくありませんが、予約された時間の範囲内で事務的に対応される公証人の方がいらっしゃることも否定できません。公正証書遺言によれば、形式面のみならず、内容面において間違いのない遺言書を作成することができる、これが公正証書遺言の強味と言われますが、本当にそれがご本人の意思でよかったのか、いま、アドバイザーとしての反省の気持ちもよぎります。公正証書遺言の作成を始めると、手続きに流されてしまい、内容の修正は言い出しにくい雰囲気にもなります。ご本人の意思はこれでよかったのか。また、公正証書遺言であれば絶対大丈夫と言い切れるものではなく、たとえ公正証書遺言であったとしても、遺言書作成時点における意思能力(遺言書を理解する能力)があったのかどうか、裁判沙汰になって争われることがあることも否定はできません。そうであれば、ご自宅で、落ち着いた環境で、ご本人の自筆で、遺言書を書き残していただくほうがよほどよいのではないでしょうか。公正証書遺言よりも自筆証書遺言のほうがはるかに優れているのではないでしょうか。法改正により、自筆証書遺言でも、相続開始後の円滑な手続きを期待することができるようになってきています(本稿012、本稿017)。相続対策や遺言書の作成は、ご本人が主導していただかなければなりません(本稿011)。そして、ご本人の主導の下、必要に応じて頼れるアドバイザーをご活用いただきたいと存じます。このような、本来あるべき相続対策や遺言書の姿が、いまようやく、実現できるようになってきていると感じています。
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