007 遺産分割協議の対象財産
前回は、相続の高齢化について述べました。遺産分割協議においては、相続財産の調査、相続人間の意見調整、相続の高齢化問題、これらの問題が立ちはだかり、多くの相続において、遺産分割協議を速やかに完了させることは困難であることを述べました。今回は、再び、平成28年12月19日の判例をとりあげ、遺産分割協議の対象財産について、述べたいと思います。本稿では、可分な財産と不可分な財産の線引きを決めているのは、蓄積された判例であることを述べました(本稿002)。言い換えれば、相続開始と同時に法定相続分に従って分割承継される財産と、相続開始と同時に法定相続分に従って分割承継されることなく遺産分割協議を経て承継される財産の線引きは、蓄積された判例により判断されるということになります。そして、平成28年12月19日の判例は、預貯金が後者(不可分な財産=相続開始と同時に法定相続分に従って分割承継されることなく遺産分割協議を経て承継される財産)であることを判示しました。預貯金ほど、2分の1や3分の1といった法定相続分に従って「スパッ!スパッ!」と割り切れる財産はないようにも思われますが、この判例は、預貯金は割り切れない財産であると述べました。それでは、何が、相続において割り切れる財産、可分な財産に該当するのでしょうか。平成28年12月19日の判例が示された後の裁判例の蓄積はまだ十分ではないと言わざるを得ませんが、例えば、被相続人が交通事故で亡くなった場合の加害者に対する損害賠償請求権は可分な債権であり、相続人に法定相続分に従って相続される、と考えられるようです。しかし、交通事故等のアクシデントに基づく損害賠償請求権は、通常、自動車保険等の損害保険の仕組みによって行使されることになり、一般的な相続において問題となる課題とは考えられません。誤解を恐れずにざっくばらんに言えば、平成28年12月19日の判例が示されたことにより、およそプラスの相続財産は不可分な財産であり、相続開始と同時に法定相続分に従って分割承継される財産など見当たらず、遺産分割協議を経て、誰が何を承継するのか具体的に決めなければならない、ということになります。相続、そして、遺産の承継においては、法律の規定内容よりも、相続人間における遺産分割協議における合意形成が何よりも重要であり、必要なことなのです。
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