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Vol 3.0 社会保険田川病院がん拠点病院とは何か がんと診断されたら

 田川市にある後藤寺の病院と言えば社会保険田川病院(335床)。地域がん診療連携拠点病院や地域医療支援病院等の認定を受けている田川地域の基幹病院である。

 社会保険田川病院は田川市郡で唯一の「地域がん診療連携拠点病院(以下、がん拠点病院と略)」として厚生労働省より指定を受けており、
「①専門的ながん医療の提供」
「②地域におけるがん診療の連携協力体制の構築」
「③がん患者さんに対する相談支援及び情報提供」
の3つの役割を担っている。本号では、その知られざるがん拠点病院の実態を紹介する。最前線でがん患者さんと共に、がん治療に携わる医師やスタッフからがん拠点病院の役割や、がん診療や検診の重要性を感じて頂くのが本号のテーマだ。そこで、まずは、当院の佐野智美緩和ケア内科部長に突撃取材(伊藤編集部員)を敢行した。

医師が解説。がんの素朴な疑問

【がんになるのはなぜ?】
(伊藤)どうしてがんになるんですか?
(佐野)どうしてだと思う?
(伊藤)環境とかですか?食生活とか?
(佐野) そうですね。生活習慣だけでなく、さまざまな要因が考えられています。現在、日本人では、タバコを吸う人だけでなく、周囲でタバコの煙を吸う人への影響や、お酒の飲みすぎ、食事の偏り(例えば、塩分をとりすぎる・果物や野菜をとらない・熱すぎるものを飲んだり食べたりするなど)、運動不足、ウイルスや細菌への感染もがんの要因になるとされています。

緩和ケア内科部長 佐野 智美

【がんとは?】
(伊藤)そもそも、がんってなんですか?
(佐野)人間のからだは、約60億個の「細胞」からできていて、その細胞はコピーして新しく生まれ変わっています。元の細胞と同じものをつくるために、細胞の設計図である遺伝子が情報を伝えています。がんは、細胞の設計図である遺伝子が傷つくことによって起こる病気です。傷ついた遺伝子からできて、勝手に増え続ける性質を持つ細胞が、「がん」になります。乳がんの場合、初めのコピーのミスが始まって1㎝の大きさになるまでに10~20年、1㎝から2㎝になるまでに1~2年と言われています。1㎝以上の「がんのかたまり」になると、CTやMRIなどの写真で確認することもできるようになります。だから、早期発見のためにも健康診断を受けることが大切ですね。
(伊藤)小さければ小さい程、がんの治療が効果的なんですね?
(佐野) そうです。手術で切り取るにしても、放射線をあてるにしても、標的が小さいほうがからだへの負担が少ないことが多いです。大きくなると転移をして、からだのあちこちに治療が必要になってきたりしますから。


総務課 伊藤編集部員

【がん拠点病院とは?】
(伊藤)がん拠点病院ってなんですか?
(佐野)全国どこでも、「質の高いがん医療」を提供することを目指して、厚生労働大臣が指定しています。専門的ながん医療を提供する、がん診療の地域連携協力体制をつくり・繋がる、がん患者さん・ご家族に対する相談支援および情報提供などについて、国が定めた基準を満たしています。拠点病院には種類があり、県の中心になるのが県拠点病院、地区の中心になるのが地域拠点病院。筑豊地区ではがんの拠点は社保田川病院と飯塚病院の二つのみです。ウリの一つは、無料のがん相談窓口があり当院の患者さんじゃなくても気軽に相談できるところです。また、その相談は電話でも対応しているのでいつでもどこでも気になったら先ずは相談してください。

がん拠点病院の条件とは

 拠点病院には、厳しい指定要件が定められており、その項目数は約300項目。例えば、がんの診療体制の基本である、【手術】【抗がん剤治療】【放射線治療】の体制。その他にも診療実績、常勤の病理診断医、放射線治療医、緩和ケア医など、医師の在籍、資格要件が求められている。これらに加えて、がん診療における専門資格を持った看護師(緩和ケア認定看護師等)や医療チームを整えること等の患者さん目線に立ち質を確保するための要件が定められている。その中で『がん相談支援センター』の設置も義務付けられている。無料で誰でも相談できるがんのよろず相談所だ。

がん相談員に聞く「がん相談支援センター」とは?

 現在、福岡県での死亡原因は、1位「がん」、2位「心疾患」、3位「老衰」の順となっている。また、がんといってもさまざまな種類があり、その中で死亡原因となるがんの内訳をみると、男女共に気管・気管支及び肺が1位を占め、男性は胃・肝臓及び肝内胆管と続き、女性は結腸・膵臓となっている。 
 今日では3人に1人ががんに罹患すると言われ、慢性疾患と同様に『共に付き合っていく病気』として考えられるようになっている。
 「がんと告げられても一人で悩まないでください。がん相談支援センターのがん相談員は、自分らしく過ごされるためのお手伝いが出来るよう努めています。ご本人はもとよりご家族でも、また、どこの病院に通院されていても利用できます。相談料も無料ですので、まずはお気軽にご連絡ください。」診断や治療の状況に関わらずどんなタイミングでもどんなことでも相談できる。国が定める指定の講習を修了した専門の医療ソーシャルワーカや看護師が相談に応じる。

がん相談支援センター 相談員 看護師 長尾聖子                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                      

編集部員の感想

 がんについて詳しく知ることができたのと同時に、いつ自分ががんになるかもわからないという不安もあります。それでも、それを気軽に相談できる施設があることやさまざまな治療方法があること、がんは地元で治療ができるということがわかり、安心しました。このことを地域の皆さんにもっと知っていただきたいです。

乳腺外科髙橋医師が語るがん治療

【なぜ乳腺外科医になることを決意したのか?】
 医師免許を取得して外科に入局するまでは、消化器外科医になりたいと強く思っていました。外科で研鑽を重ねていく中、自分の家族が増えたことをきっかけに、比較的家族との時間をとりやすい乳腺外科医になろうと思い立ちました。元々外科の世界では乳がんと大腸がんが増え続けると言われていました。さらに、乳がんは化学療法やホルモン療法、分子標的治療1や抗HER2療法2といった治療が効きやすく、患者さんにも喜ばれることで、自分自身も大変やりがいを感じることができたからです。

【今まで経験した中で印象に残っているエピソードは?】
 40代で乳がんの肝転移があった若い患者さんで、いよいよ病状が悪くなった時に、娘さんのダンスを観るために退院されました。しばらくは娘さん、ご主人と共に自宅で過ごされましたが、その後病状が悪化されて再入院されました。
 最期の日に呼吸が止まりかけた時、私が気管挿管を行う判断を下し、娘さんとご主人に会わせることができたことが、とても印象に残っています。30代で多発脳転移をきたし、立ち上がることさえできなかった方が、最新の抗HER2治療薬を始めたことにより、脳転移が完全に消失して日常生活を送れるようになりました。この方が経験されたように、転移がひどい状況から生還されるケースも、乳がんの世界ではよく経験されます。
 がんへの対策でまず大事なことはやはり検診を受けることでしょう。早期発見・早期治療が大事なのです。

外科部長 乳腺外科専門医 髙橋 龍司


乳がん治療の一例

上の図では、当院での乳がん治療の流れをイメージして頂きやすいように、エピソード形式で流れを紹介する。乳がんの治療は健診からはじまり「手術」のみならず、放射線治療、抗がん剤治療やホルモン療法等、さまざまな治療方法がある。
 この事例の患者さんは50代の方で、定期的に受けている健康診断でがんの疑いがあることが判明。その後、当院の乳腺外来を受診された。無症状かつしこりがまだ小さい状態であることから乳腺外来で検査を行いがんを早期発見することができた。 この患者さんの場合は、最初に手術を行い、その傷の状態の回復を待ち放射線治療(リニアック)を開始した。
 放射線治療は、週5日(月~金)で約1ヶ月間実施。その後は、抗がん剤点滴治療(化学療法)を数ヶ月行った。しかし、その後、副作用のひとつである皮膚症状が現れはじめたため、抗がん剤点滴治療からホルモン療法(内服薬)へ切り替えて治療を継続することになった。
 乳がんは寛解や完治までに5~10年という期間を要するため、現在も治療継続中であるが、体調、治療効果共に良好で、現在は自宅でお孫さんやご家族と元気に過ごされている。

がん種別検診受診率 福岡県と全国比較

肺がん検診受診率比較
胃がん検診受診率比較
大腸がん検診受診率比較
乳がん検診受診率比較
子宮頸がん検診受診率比較

 受診率を比較すると、いずれの項目でも全国平均を下回っている。早期発見・早期治療の観点から県民、市民の皆さんのがん検診受診が望まれる。なお、がん検診は、単独でも受診可能で社保田川病院でも乳がん・子宮がん検診に対応。会社員(協会けんぽ等)の方は、年齢によって胃カメラなど、対象となる検査が決められている。国民健康保険(自営業の方等)の加入者は、各市町村の集団検診で、その他のがん検診を特定健診に組み合わせて受診することも可能だ。集団検診は、保健センター等で月に数回実施されているため、各市町村に問い合わせて受診して頂きたい。
             
                    健康管理センター 室長 宮原

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