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Vol 7.0 充実のサポート体制「未来をつくるリハビリ」一歩ずつ強くなるプロセス
田川市にある後藤寺の病院と言えば社会保険田川病院(335床)。地域がん診療連携拠点病院や地域医療支援病院等の認定を受けている田川地域の基幹病院である。
田川病院は、救急などを受け入れる「急性期の病院」というイメージが強いかもしれない。だが、現在は急性期から在宅までトータルに治し、支える医療提供を目指し、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟といった回復期病棟、訪問診療や訪問看護、訪問リハビリテーションを有する「多機能病院」へと進化している。
そんな社会保険田川病院で、365日、毎日リハビリテーションが行われているのをご存じだろうか。手術や投薬だけでなく、「治し、支える医療」にリハビリテーションは欠かせない。今回のひとちゅう新聞では、急性期から回復期・在宅までトータルで支える当院のリハビリテーションについてお伝えする。
リハビリテーションとは
リハビリテーション(Rehabilitation)とは、ラテン語のre(再び)とhabilis(適した)を組み合わせた言葉であり、失った機能を回復し、再びその人らしい姿に戻すこと、ふさわしい状態まで回復して生きていくことを目指す活動を指す。
では、リハビリテーションが医療現場においてどのように関わるのだろうか。
例えば足を骨折をした場合、手術をしたとしてもすぐに歩けるようにはならない。骨折前の状態に戻るためにも、歩行訓練をはじめ普段の生活をする上でのあらゆる動作の練習をリハビリテーションで行う必要がある。そうすることで日常生活機能(ADL)の回復をしていく。
また、リハビリテーションを行う目的は、病気やケガによって低下してしまった身体機能を回復することだけにとどまらず、疾患の発症による後遺症のリスクを緩和するという目的もある。その他にも、寝たきりや要介護状態になることを防ぐためなど、リハビリテーションにはさまざまな目的がある。
リハビリには段階がある?
リハビリテーションには、急性期・回復期・維持期と呼ばれる3つの段階がある。
急性期のリハビリテーション
急性期は、病気の発症や受傷して間もない時期、手術直後の最も医学的リスクが高い時期である。治療や処置のためある程度の安静は必要だが、過度の安静は廃用症候群※を招く。そのため急性期からのリハビリが重要となる。
当院ではリスク管理のもと、廃用症候群の予防のためのベッド上リハビリを行うとともに、状態に応じて可能な限り早期離床を目指す。急性期から次の段階である回復期を経由せず在宅復帰をするといったケースもあるため、それぞれの目標に応じて最適なリハビリを行うことも、急性期での大切な役割だ。
※廃用症候群…病気やケガによって長い間寝たきりになることで起こる全身の障害
回復期のリハビリテーション
回復期は、急性期の治療を終え、病気やケガが安定した状態で、さらにリハビリの継続が必要な段階である。その際、急性期の病棟から回復期の病棟へ移り、集中的なリハビリが継続される。患者さんが社会や家庭へ問題なく復帰したり、寝たきりの防止など退院後の日常生活を見すえた訓練を行う。そのため急性期に比べ、在宅生活に近い環境で生活動作訓練を中心にリハビリを行う。
当院には前述のように回復期リハビリテーション病棟を有しており、急性期から回復期まで一貫したリハビリを提供している。また、病棟にはリハビリ専用のスペースがあり、患者さんの状態に応じてリハビリを行う体制を整えている。
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リハビリスペース
維持期のリハビリテーション
維持期は、急性期・回復期リハビリで獲得した機能やADL能力の維持を目的に行うリハビリの段階である。維持期ではすでに医療機関を退院し、在宅や施設での生活を送っている時期でもある。
著しい機能改善やADLの向上はあまり期待できないが、時間をかけて反復訓練を行うことで改善がみられることもある。活動性の低下を予防し、能力向上だけでなく社会活動への参加も含め、総合的なアプローチを行っていく時期となる。
当院では訪問リハビリテーションを行っている。理学療法士や作業療法士が患者さんの自宅を訪問。実際の生活の場でリハビリを行うことで、患者さんはリラックスして取り組むことができ、なおかつ普段の生活に即したものとなる。
リハビリのスペシャリストたち
リハビリテーションは、医師や看護師など普段から関わる医療従事者だけでなく、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリテーションのスペシャリストが関わる。患者さん一人ひとりに合わせた目標やスケジュールが組まれ、在宅・社会復帰ができるようサポートする。
【理学療法士】
理学療法士はPT(Physical Therapist)とも呼ばれる。ケガや病気などで身体に障害のある人や障害の発生が予測される人に対して、基本動作能力(座る、立つ、歩くなど)の回復や維持、及び障害の悪化の予防を目的に、運動療法や物理療法(温熱、電気等の物理的手段を治療目的に利用するもの)などを用いて、自立した日常生活が送れるよう支援する。関節可動域の拡大・筋力強化・麻痺の回復・痛みの軽減など運動機能に直接働きかける治療法から、動作・歩行練習などの能力向上を目指す治療法まで、動作改善に必要な技術を用いて、日常生活の自立を目指す。
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【作業療法士】
作業療法士はOT(Occupational Therapist)とも呼ばれる。患者さんの健康と生活の質を向上させるために、医療・保健・福祉・教育・職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療・指導・援助を行う。作業療法士の「作業」とは、着替えやトイレ・料理を含む家事・仕事など日常生活に必要な動作を指す。入院患者さんに対し、食事や着替え、入浴動作といった生活に密接に関連する活動を通じて、患者さんが自立した生活を送れるように支援する。理学療法士が主に身体機能の能力向上を目指し訓練や指導を行うのに対し、作業療法士は日常生活動作の能力向上を目指し、生活全般に役立つ訓練や指導を行う。
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【言語聴覚士】
言語聴覚士はST(Speech Therapist)とも呼ばれる。「ことば」によるコミュニケーションや、摂食・嚥下に問題がある人に対して、その機能の維持・向上を図る。ことばによるコミュニケーションの問題は、失語症や高次脳機能障害のほか、聴覚障害・ことばの発達の遅れ・声や発音の障害など多岐に渡り、こどもから高齢者まで幅広く現れる。
これらの問題の本質や発現メカニズムを明らかにし、対処法を見出すために検査・評価を実施し、必要に応じて訓練・指導・助言・その他の援助を行う。
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当院では、これらリハビリのスペシャリストたちが、病棟ごとにリハビリテーションチームを作り、それぞれの専門性を生かしたリハビリを日々提供している。それぞれの治療結果等をチーム内で共有し、リハビリの方向性を検討することで、患者さん一人ひとりにとって最適なリハビリを提供している。一日でも早く在宅・社会復帰ができるよう援助を心掛けている。
また、PT・OT・STの連携に加え、多職種との連携も重要である。医師や看護師はもちろんだが、介護福祉士や薬剤師、管理栄養士などさまざまな職種やチームが連携し、個人に寄り添ったリハビリを提供している。
では、実際どのような連携をしているのか、特に関係が深いと言われる栄養について、回復期リハビリ病棟の管理栄養士へ話を聞いた。
栄養の重要性
リハビリと栄養の関係
リハビリを行う患者さんは、リハビリの内容によって体にかかる負荷量が変動します。そのため、カロリーやたんぱく質など必要な栄養素を補える食事を提供しています。併存している疾患や状態を見て、その人に合った食事を提供し、リハビリができる体づくりを栄養面でサポートしています。
病棟での役割
ミールラウンド(食事観察)を毎日行っています。ミールラウンドでは、患者さん一人ひとりの食事量や、食べている際に咳き込んだりしていないかなどを確認しています。この時確認した内容は、STと情報共有をしています。また、患者さんが実際にどのようなリハビリをしているのかを見るようにしています。カルテ(診療録)でリハビリをしていることは確認できますが、どのようなことをしているのか、どれくらいの負荷がかかっているかというのは、実際に見てみないと分かりません。
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管理栄養士
山川 千尋
進化するリハビリテーション課
私は社会保険田川病院で生まれ、地元田川で育ちました。父の仕事の関係で幼少期より田川病院を訪れることが多かったせいか、私にとって田川病院はとても身近な存在であり、憧れであり、この地域にとってなくてはならない病院だと子供ながらに感じたのを今でも覚えています。そして理学療法士になる道を選んでからは田川病院に就職することが私の夢になりました。
私が就職した昭和63年当時、セラピスト※はわずか3名でした。その後地域のニーズに応じて地域包括ケア病棟や、回復期リハビリテーション病棟を開設し、現在では75名のセラピストが在籍する大きな組織に成長しました。規模の拡大に伴い、様々な専門的知識を備えたスタッフも多くなり、緩和ケアチームや栄養サポートチームのメンバーとして質の高いリハビリテーションを提供しています。
※セラピスト…PT・OT・STの総称
リハビリテーション課の理念は、「障害を持った人々やその介護者と心を通い合わせながら進める『支える医療』の提供」です。入院から在宅までの一貫した流れの中で、超早期よりリハビリテーションを開始し、状態に応じたリハビリテーションを継続することで在宅復帰を目指します。退院後は外来リハビリや訪問リハビリでの継続的な支援、介護者への指導・援助を実施します。
また地域住民の方々に対しては、健康教室や地域イベントへの参加を通じて、健康増進や生活活性化、介護予防などの教育啓発活動を積極的に行うことで、地域に密着したリハビリテーション課を目指しています。
『継続は力なり』
私のモットーであるこの言葉は「何事も継続することで成果が得られる、諦めずに取り組むことで能力が身につく」という意味です。入院から在宅まで切れ目のないリハビリテーションを継続していくことで、患者さんが住み慣れた場所で安心・安全に その人らしく”生活できるように、また地域の皆様が健康に暮らせるように支援させていただきます。
リハビリテーション課 技師長 古木 千晶 談
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技師長
古木 千晶
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