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Vol 4.0 どんな腫瘍もかかってこい 「技の婦人科」腹腔鏡手術のプロフェッショナル


 田川市にある後藤寺の病院と言えば社会保険田川病院(335床)。地域がん診療連携拠点病院や地域医療支援病院等の認定を受けている田川地域の基幹病院である。
 そんな社会保険田川病院産婦人科で、ここ数年腹腔鏡手術が増加していることはご存知だろうか。

腹腔鏡手術とは

 腹腔鏡手術とは、おへそに開けた約1㎝の穴より腹腔鏡(内視鏡)をいれ、お腹を膨らませた状態にして腹腔内の手術をすることだ。モニターに映し出された映像を見ながら、下腹部にさらに2~3か所小孔を開け、お腹の中に鉗子という専用の器械を出し入れしながらお腹の中で手術操作を行なう。手術後の傷あとが小さいことが最大のメリットで、ここ10年ほどの間に急速に産婦人科手術の中心的方法として広まった。術後の回復が早く、痛みも少なく、傷跡も目立たないのが特徴である。子宮筋腫や卵巣嚢腫といった婦人科の病気は20代~40代の比較的若い女性に多くみられる病気であるが、多くの場合、腹腔鏡手術が可能である。
 2021年10月1日、社会保険田川病院顧問として産婦人科医蜂須賀徹が着任した。彼は炭鉱がまだ盛んなころ田川市伊田のボタ山の麓で生まれた。順天堂大学を卒業し、九州大学産婦人科教室に入局。病理学教室で研究生活を過ごした。その後、佐賀医科大学産婦人科、福岡大学産婦人科を経て2006年から2018年3月までは産業医科大学産婦人科教授を務め、北九州地区の婦人科内視鏡手術の発展と婦人科悪性腫瘍の治療に力を注いできた。教授在任期間中だけでも婦人科悪性腫瘍約350例、婦人科内視鏡手術約430例の手術を担当。

 上のグラフは、当院における2018年からの半期別手術件数の推移である。腹腔鏡手術件数を見ていくと、2021年から前年と比較して約3倍に増加しているのがわかる。

病院顧問・産婦人科医 蜂須賀 徹

 2018年4月からは製鉄記念八幡病院で婦人科内視鏡手術を中心に診療を行っていました。婦人科悪性腫瘍だけでなく、子宮筋腫や子宮内膜症などの良性腫瘍、また最近多くなってきている骨盤臓器脱などの疾患についても最新の治療をご提供することができると思います。お気軽にご相談いただければと思います。【蜂須賀 徹 談】

婦人科の腫瘍とは

 人間の身体は約60兆個と言われる多くの細胞からできている。それらの細胞は一定の期間がくると消滅し、新たな細胞に置き換わる。例えば、皮膚細胞の寿命は28日間であり、古くなった細胞は剥離して新しい皮膚に置き換わる。一方、何らかの機転で細胞が死なずに増え続けると、塊(腫れ物)ができるが、それを腫瘍と言う。
 腫瘍には他の臓器への転移や周辺への浸潤*¹をおこす悪性腫瘍と、それらをおこさない良性腫瘍とがある。子宮筋腫は大きくなっても転移や浸潤をおこさないので良性腫瘍とされる。
(浸潤*¹:がんが周りに広がっていくこと。「浸」はしみることで、「潤」はうるおって水気を帯びること。水が少しずつしみ込んでいくように、がん細胞が周囲の組織を壊しながら入り込み次第に拡大していく。)

出展:日本産婦人科学会HPより

 一方、子宮頸がんは転移や浸潤をおこすので悪性腫瘍とされている。腫瘍は遺伝子の異常で惹き起こされる病気であることが分かってきている。

出展:日本産婦人科学会HPより

子宮筋腫治療の事例(30歳代女性)

 子宮筋腫は30歳以上の女性の20~30%にみられる珍しくない腫瘍である。筋腫は卵巣から分泌される女性ホルモンによって大きくなる。
 おもな症状は、月経量が多くなることと月経痛。その他に月経以外の出血、腰痛、頻尿(トイレが近い)などがある。子宮の内側にできた筋腫は小さくても症状が強く月経量が多くなる。逆に子宮の外側にできた筋腫は大きくなっても症状がでない傾向があるため、治療が必要かどうかもできた場所や症状によって異なる。妊娠しにくい、流産しやすいなどの症状もみられることがある。
 治療法には薬と手術がある。子宮筋腫を根本的に治す薬はないが、薬で子宮筋腫を小さくしたり、出血や疼痛などの症状を軽くすることができる。このような理由から、薬による治療は、手術前一時的な使用や、閉経が近い年齢の方などの一時的治療として行われることが多い。手術は、子宮鏡手術、腹腔鏡手術、開腹手術などがある。将来子供がほしい人や子宮を残す希望の強い人では筋腫だけ取る手術を実施する。従来はすべて開腹手術で行っていたが、最近は可能な症例は腹腔鏡手術で行うことが多くなっている。

子宮頸がん治療の事例(30歳代女性)

 子宮にできるがんとして、以前は子宮頸がんが一番であったが、最近は子宮体部にできる子宮内膜癌の方が多くみられる。しかし日本では現在20~30歳代の若い女性に子宮頸がんが増加しており、婦人科腫瘍専門医の中で大きな課題となっている。子宮頸がんのほとんどは、ヒトパピローマウイルス(以下HPV)というウイルスの感染が原因であることがわかってきた。この感染をワクチンで予防して子宮頸がんの発症を抑えようとするのがHPVワクチンである。ワクチン接種については、婦人科専門医に相談して接種されることをお勧めする。また、子宮頸がん予防のもう一つの柱が子宮頸部細胞診検査である。二十歳を過ぎたら、2年に1回の子宮頸がんの検診が勧められている。
 子宮頸がんの症状は予期しない性器出血である。これらの症状がある方は、婦人科に早めにかかり診察を受けること。まずは子宮頸部の細胞診検査を行う。細胞診の結果、前がん病変*²やがんの疑いがある場合には、コルポスコピーという拡大鏡で病変部の観察を行いながら子宮頸部の組織を採取し、前がん病変または浸潤がんであるかの診断を行う。もし浸潤子宮頸がんと診断されたら、次に画像検査(CT、MRI、PETなど)を行い、子宮の周囲にある組織へのがんの広がりやリンパ節・他臓器への転移の有無を調べる。これらの結果に基づき、がんの進行期を決定する。
 子宮頸がんの治療方法は、手術療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤)の3つを単独、もしくは組み合わせて行う。さらに最近は、一部の免疫療法、分子標的療法なども治療効果を認めることが明らかとなり、盛んに行われるようになってきた。病気の進行期と患者さんの年齢や治療後の妊娠希望の有無、基礎疾患(持病)の有無などにより、担当医と十分に話し合って最適な治療法を選択することが大切である。
(*²前がん病変:がんになる手前の状態にあるという意味。まだ「がん」になっていない状態のため「前がん病変」の段階で治療を行えば、ほとんどの場合完治する。「前がん病変」の段階で発見し適切な治療を行うことがとても大切である。)

妊孕性(にんようせい)温存療法とは

 妊孕性とは、妊娠するために必要な能力のことである。妊孕性は、女性にも男性にも関わることで、妊娠するためには卵子と精子が必要となり、卵巣、子宮、精巣などが重要な役割を果たしている。がん等の治療では、手術や抗がん剤治療、放射線治療などによる影響で、妊孕性が低下したり失われたりすることがある。
 妊孕性温存療法とは、将来自分の子どもを授かる可能性を残すために、がん治療の前に、卵子や精子、受精卵、卵巣組織の凍結保存を行う治療のことである。希望をもってがん治療にのぞむことができるよう、これらの治療がある。大切なことは、このような治療法があることを知ったうえで後悔のない選択をすること。まずは、主治医に希望を伝え、必要時には生殖医療医とよく話しあい、適切な選択をできるようにすることが大切だ。

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