米国特許訴訟における差止要件

1.米国では、日本と異なり、対象製品の侵害が認定された場合でも、常に差止判決が下されるわけではなく、以下の4要件を満たした場合にのみ差止判決が下される(2006年5月15日eBay事件最高裁判決)。

・ 回復不可能な損害(第1要件)
・ 金銭的賠償の不十分性(第2要件)
・ 原告・被告間の困窮度バランス(第3要件)
・ 公共利益への影響(第4要件)

2.上記4要件のうち、差止判断に重要な影響を与えるのは、第1要件と第2要件とされる。さらに言えば、第1要件が決定的に重要とされる(以下、知財協『eBay判決後の差止判断(4要素テスト)に関する調査研究』による)。

① 第1要件(回復不可能な損害)について:

回復不能な損害が生じる状況として認定されるためには、被疑侵害者と特許権者が直接競合していることが重視される。

以下のような事情は、直接競合が否定され得る事情である。

・ 訴訟当事者以外に競合他社が存在すること
・ 業界全体として価格が下落傾向にあること(→被疑侵害品が市場に出回ったことにより価格が下落したとは必ずしも言えなくなるため)

また、被疑侵害品が市場に出て数年経ってから提訴した場合は、回復不可能な損害が認められない方向に傾く。

② 第2要件(金銭的賠償の不十分性)について:

第2要件は、金銭的賠償だけでは特許権者の損害を補償するには不十分であることを特許権者に立証するように要求する。
特許権者がライセンスを拒否していれば、特許権者にとって金銭的賠償では不十分であることが推察され、これに基づき金銭的賠償では不十分であると判断される可能性がある。
一方で、ライセンスによって金銭的な補償を受けたことがある特許権者であれば、金銭的賠償で十分であり、終局的差止は不要だという被疑侵害者の抗弁が可能となる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?