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「ハイウェイ・ホーク」第三章 鷹の目(3/6)【創作大賞2024ミステリー小説部門】

 谷川たちは東出から紹介された管理事務所の責任者から、南京錠の鍵のことについて情報を得ることができた。その鍵は基本的に管理事務所で管理されているのだが、下請け業者が無断で合い鍵を作っているらしく、どの会社が所持しているのか公団側は把握できていないとのことだった。
「全くずさんな管理ですね。これじゃあ、ホシの目途を絞り込めやしませんよ」
 責任者と別れた後、尾形が独り言ちた。
「おれたち警察も偉そうなことは言えんよ。とにかく公団職員以外にも、容疑者になり得る人物がいるってわかっただけでも収穫じゃないか」
 谷川はあくまでも前を向いていた。容疑者グループが下り線を使って逃走したという根拠はない。しかし刑事の勘がどうしてもそう働くのだった。谷川たちは責任者から下請け会社のリストをもらい、尾形は府警本部に戻って一社ずつ調べることにした。谷川は引き続き管理事務所に残って、犯行時の高速道路に設置されている監視カメラの映像を見せてもらうことにした。犯行時刻から数時間分の映像を確認したが、不審な車両を確認することができなかった。そろそろ諦めようかと思った時、梨田IC付近を走行する黄色にペイントされたトラックの映像が見えた。映像に映っている時刻は、午前四時二十五分だった。
 -このトラックは犯行前に鷹の目をした男が乗っていたトラックに似ている。

 谷川は管理事務所の責任者にそのトラックのことを聞いてみると、夜間工事で本線規制を行っていた規制会社のものということがわかった。しかしどこの会社まではわからない。公団が工事を発注する場合、工事会社と下請け契約を結ぶ。本線の規制業務は下請け業者に任せられるため、公団は規制会社のことまでは把握していないということだった。ただし気になる情報を得ることができた。その工事は犯行日の前日に行われる予定だったが、突然の降雨で一日遅れて実施されたというのだ。
 谷川も府警本部に戻り、尾形に鷹の目の男のことを話した。
「そいつが犯行時にそこにいたって言うんですか。そんな偶然ってありますかねぇ」
 尾形はパソコンに向かって忙しそうに手を動かしながら、目も合わせずに答えた。
「そうだよなぁ、はっきり言って顔も覚えてないし・・・」
 谷川が生半可な返事をすると、この話はそれっきり終わってしまった。

 二人は翌日から二十数社に及ぶ下請け会社を訪ねて回ることにした。南京錠の鍵について話を聞くためには、現場責任者に接触する必要がある。尾形がすでにリストアップしていたので、あとは各会社に電話をすれば居場所を確認することは簡単だった。最初に二人が訪れたのは、犯行日に舗装改良工事を行っていた建設会社だった。尾形が一般道路の舗装改修工事現場で事情聴取をしていた時、谷川はふと道路規制を行っている警備員の顔を見た。谷川の目が釘付けになった。鷹の目をした男がそこにいたのである。谷川はその男に近づいていき、そして話しかけた。
「警察の者です。少しよろしいですか」
 その男は少し驚いたような顔をした。
「何の御用でしょうか。警備中なので持ち場を離れることができません」
 男は愛想なく返事をした。
「ではこちらが一方的に話しますので、返事だけしていただければ結構です。一週間ほど前、高速道路で現金の強奪事件がありましたよね」
「ええ、良く知っています。それが何か」
「容疑者が事件のあった上り線のサービスエリアから、どうやって逃走したのかがさっぱりわかりません。私は下り線を使って逃走したと推測しています」
「高速道路の規制もよくやってますが、上り線から下り線には行けませんよ」
「それが行けるルートがあるんですよ。本線上に跨道橋があるのをご存知ですよね」
「知ってますよ。でもゲートがあって普段は閉鎖されているから、通れないんじゃないですか」
「さすがによくご存じだ。それなんですがね、門扉の鍵があれば通過できるんです」
「その鍵は公団の人しか持っていないはずですよ」
「いやいや、業者さんが合い鍵を作っているってうわさを聞きましてね。こうして聞いて回っているんですよ。失礼ですが、お名前と会社名をお伺いしてよろしいですか」
「東洋ハイウェイ・サービスの安井です」
「安井さんですか。ありがとうございます。失礼ですがその鍵はお持ちではないですよね」
「はい、持っていません。必要な時は請負先から借りるようにしています」
「そうですか。お時間を取らせました」
 谷川は目も合わせない安井の後方から、礼を告げて引き返した。安井から何の動揺も感じられなかった。犯行前に見掛けたあの男とは違う人物なのだろうか。獲物を狙う鷹のような目。そんな男はそうそういるはずはないのだが・・・。

 安井は川口から木場田の携帯番号を聞き出し、接触を図ろうとした。しかし野村に反対された。
「金のために友達をどつき回すようなやつやで。こっちの言い分なんて聞くわけないやろ、やっさん。例え渡辺のことを話したから言うて、知ったこっちゃないって言われるのが関の山やで。話し合いなんて無駄や。逆にやっさんまで脅されるようなことになったら、たいへんなことになるで」
「しかしこのまま警察に通報されたら、せっかくの計画が台無しになります」
「そやなー、このまま無視してたら、垂れ込まれるかもなぁ。そうなってしもたらわしら全員逮捕されて、渡辺の家族に金を渡されへんようになってまうわなぁ」
「ええ、少なとも三年は手を付けずに隠しておいて、少しずつ渡してやれば警察にばれないはずです。それで渡辺も成仏できると思っていたんですが誤算でした」

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昭真(shoshin)
「通勤電車の詩」を読んでいただきありがとうございます。 サラリーマンの作家活動を応援していただけたらうれしいです。夢に一歩でも近づけるように頑張りたいです。よろしくお願いします。