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【ショートショート】「歴史を変えるものは」(800字)

「お前たちの中に一人、タイムトラベラーがいる」

 総帥の言葉に、官房長官・最高裁判所長官・議長の三人は互いの顔を見合わせた。

「確実な情報筋からの情報だ。そしてタイムトラベラーは未来か過去かどちらかからやってきた敵国のスパイで、歴史を改変しようとしているという」
「それで、誰がタイムトラベラーか分かったんですか?」

 官房長官は慌てた。

「まだだ。よってこれから、貴様らが本当にこの国のこの時代の人間か、試させてもらう」

 総帥は三人を順に見渡し、言った。

「お前らが最も尊敬する人物は誰だ」
「もちろん総帥です」官房長官は答えた。
「父です」最高裁判所長官は答えた。
「HIKAKINです」議長は答えた。

 総帥は唸った。知らない名はあったが、よく考えれば時代が違えばそれが誰か、総帥に知りようがなかった。総帥は質問を変えた。

「タイムマシンを手に入れたら何をする」
「未来を見て総帥が世界を手に入れられるよう情報収集します」官房長官は目を輝かせた。
「時代を超えて父の死に目に会います」最高裁判所長官は目を閉じた。
「未来や過去での出来事を生配信してチャンネル登録者を増やします」議長はにやりと目を細めた。

 総帥は唸った。誰がタイムトラベラーか、さっぱり分からない。
 ただ、これだけは言えた。

「生配信をしているところを見たことがない議長はタイムトラベラーではないであろう」

 HIKAKINも、昔流行った動画配信者にそんな名の男がいたはずだった。

 そのとき、総帥は、最高裁判所長官の顔が誰かに似ていることに気づいた。だがまさか、そんなはずは……。

「お前の父は本当に死んでいるのか?」

 問われた最高裁判所長官は覚悟を決め、総帥に拳銃を向けた。

「父であるあなたを尊敬していますが、あなたは世界に破滅をもたらす。ここで死んでください」
「未来から、わざわざ俺の死に目に会いに来たわけだ」

 総帥は目を閉じ、やがて歴史が変わる音を聞いた。


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