子宮頸管縫縮術(マクドナルド法)体験記
経緯
38歳。妊娠19週で、通常3.5センチから4センチなくてはいけない子宮頸管が2.7センチしかないため、切迫流産と診断され自宅で安静にすることに。
自宅にてトイレと食事以外は寝たきりで、シャワーも2日か3日に1回くらいの生活を一週間送った努力も虚しく、子宮頸管は1.8センチになっていて、そのまま入院することになりました。
お腹の張りもなく、感染症の検査結果も感染していないということで、子宮頸管無力症(子宮頸部の強度が弱く、子宮収縮の症状はないのに子宮口の開き・子宮頸管の短縮が起こり、妊娠が維持できなくなる状態)であろうと判断。
担当の先生(クールビューティーで塩対応だけど真面目で良い先生。時々笑ってくれるのが嬉しい。以下、塩ティ先生と呼ぶ)から、子宮頸管縫縮術を提案されました。
今の状態で赤ちゃんが助かるとしたら、子宮頸管を結ぶことしかないと思っていて、でもこの病院ではやらない方針なのではないかと思って絶望していたので、塩ティ先生がやると言ってくれて本当に嬉しかったです。
「本当は教科書通りではないんです。子宮頸管無力症というのは、正確には経産婦さん(出産経験のある女性)が前回のお産でもそうだった時にそう判断して縫縮術を行ったりします。
開業医さんだと、ベッド数も少ないから切迫早産で入院させられないし、NICUも併設してないのでやるところが多いようですが、うちは大学病院でベッドもNICUもあるので、感染症のリスクを取ってまで手術するよりも、基本は入院して安静にしてもらうケースが多いです」
「ちなみにこちらの病院では、今まで何件くらい子宮頸管縫縮術の実績がありますか…?そのうち何%が成功とか…」
「実績はそんなに多くはないです。私自身も10件やってないです。そのうち1件だけ、その方は元々感染症があったと思うのですが、感染症を併発して流産になりました。他の方は無事に出産できる時期まで赤ちゃんが育っています。
ただ母数が少ないので、パーセントと言われると…」
感染症のリスクを取っても手術をするか、赤ちゃんがいつ出てくるかわからない恐怖に怯えながらひたすら安静にするか。
「杉奈さん、安静のためこちらから指定した場所(トイレと洗面所)以外のところも歩いてるところをお見受けしたので、早く退院したいですよね」
(えっ。なんで?なんでバレてるの?誰もいない時に歩いてたのに。特に塩ティ先生なんてお休みでいなかったのに。誰に見られたの?見られてたとして、どうして私だってわかったの?
でもあれよ?息苦しくて太陽見なきゃ死んじゃうと思って、5メートル先の休憩室に行って太陽浴びたいと思って、でもこんなことでナースコールするの申し訳ないから歩いて行っただけよ?)
思いがけない病院の監視システムを知り焦るせつ子。
(ハッ!もしかして先生が塩対応なのは歩いてた私に怒ってらっしゃる…?)
「先生違うんです!太陽を……」
翌日11時半から手術することになりました。
手術前
手術前日、食べて良いのは22時まで。
ここで手術を受ける素人の方であれば、夕飯を食べたあとはいつも通り何も食べないと思われますが、手術を受ける玄人である私は、22時ギリギリ前にお腹に何か入れます。
こうすることで術後の空腹にも耐えられる時間が伸びるのです。
夜中にもそもそバナナなどを食べる私。
水を飲んでいいのは朝6時半まで。これもギリギリまで飲みます。
点滴は朝6時に装着されました。
手術受け素人さんであれば、点滴をつけて歩くことを嫌だなぁと思われるかもしれませんが、手術受け玄人の私からしたら、点滴なんて『母をたずねて三千里』のマルコ少年でいうアメデオくらいの感覚です。
点滴からは、ウテメリン(子宮の収縮を抑える薬。おなかの張りや下腹部の痛みをとり子宮の状態を正常に保って流産や早産の進行を抑える)が流れてきます。
ウテメリンの副作用として、動機息切れや手の震えなどがあるそうです。心臓がお腹の方までバクバクしてることや、手がプルプルすることを楽しむ私。
手術時間が来て、下はパンツ一丁になった状態(手術をすぐ始められるようにパジャマや毛糸のパンツは脱いでおくそう)で車椅子に乗り、アメデオ(点滴)を連れて手術室に出発進行。
手術
手術室の入り口で、麻酔科の皆さんが迎えてくださいました。アクセサリーなどついてないか確認され、手術用の帽子を装着。皆さん丁寧で優しい。
麻酔科チームのボスは少しふっくらされていて、もじゃもじゃと毛深くて香水をつけ過ぎている男性(以下、もじゃパフューム先生)。
(あぁ、この人きっと、影で看護師さんから香水臭いよねとか言われてるんだろうな)
と、病院の日常に思いを馳せながら、手術室へ。
部屋の中央には無機質な手術台が。天井には手術室独特のライトがドーンと。
手術受け素人さんだと、この時点で怖くなったり、「ドラマみたい」と思ったりするのでしょうが、私のような玄人になると、なんかもう「ただいま…♡」みたいな感覚になります。
手術室にはクラシックが流れていました。
事前に「手術中、患者さんにリラックスしていただくために音楽を流しているのですが、お好みのジャンルはありますか?」と聞かれて、
J-POPやジャズなどが並ぶ中からクラシックを選んでいたのですが、J-POPを選んだら何が流れていたのか気になりました。SMAPとか安室ちゃんかな。J-POP聴きながら先生たち手術に集中できるかな。
などなど考えながら手術台の上へ。
もじゃパフューム先生が下半身麻酔を打つので横向きになって、膝を抱えて胎児のような姿勢になるよう指示してくれます。
手術は怖くないけれど、下半身麻酔は怖かった。なぜなら以前別の手術で受けた時、それはそれは痛かったからです。
「はい、ではこれから麻酔を入れるための痛み止めを打ちますよ。静かに息をしててくださいね」
背中からもじゃパフューム先生の優しい声が聞こえてきます。
「少し痛いかもしれません。はい、じんわりした痛みが腰や足の方に広がっていってるかと思います」
……痛くない。前より全然痛くない。もじゃパフューム先生、注射うまい…!そして先生の言う通り、ペンチで軽くつねられたくらいの痛みが広がってく…!
その後の麻酔の方は打たれたかどうかもわからない感じで、徐々に痺れが下半身全体に広がっていきました。
正座した時に足がじんじんしびれるやつの強い版が、腰から下全体に広がってる感じです。
「はい、では麻酔が効いているか確認していきます」と、アイスノンをまず肩に当てるもじゃパフューム先生。
「これ冷たいですか?」
「はい」
次に太ももに当てるもじゃパフューム先生。
「これは冷たいですか?」
すごい。冷たさ何も感じない。
いろんな場所にアイスノンを当てて、麻酔が効いてることをテキパキ確認していくもじゃパフューム先生。なんだかかっこいい。
麻酔は効いてきたけど、薬のせいかちょっと吐き気みたいなのがでてきました。
「ちょっと気持ち悪いんですけど…」というと、
「大丈夫ですよ。今から気持ち悪さがなくなる薬を点滴で流していきますからね。すぐに楽になりますよ」と頼り甲斐のあるもじゃパフューム先生。
実際すぐに気持ち悪さがなくなり、もじゃパフューム先生への信頼感と依存心が高まりました。
「不安かもしれませんけど、僕たちが血液の酸素とか、血圧の数値ずっと見てるので大丈夫ですよ。安心してくださいね」
……好き。もはや好き。
麻酔が下半身に効いたので、手術開始です。手術着を着た塩ティ先生がかっこいいです。
目の前にバスタオルで仕切りを作られて、手術の様子を見ることはできませんでした。
何されてるか、自分が今パンツをはいているのか否か、どんな足のポーズをしているかもまったくわかりません。
下半身が消えてしまったような不思議な感覚。
面白いなぁと、たぶん私は微笑んでいました。
クラシック音楽がうるさくて、先生たちが何を話しているかも聴こえません。
そして私が子宮頸管無力症なばかりに、こんなたくさんの方のお手数をおかけし申し訳ないという感謝の気持ち。
手術時間、14分。
やがて、クラシック音楽の合間から、男性医師が塩ティ先生に「すげーじゃん。いいじゃん。めっちゃいいじゃん」と褒めちぎっているのが聴こえてきました。
子宮頸管の縫合のことに違いありません。
無事成功に終わったのだなとホッとしました。
緊張から解放されてちょっぴりフレンドリーになった塩ティ先生が(可愛い)、
「終わりました。子宮頸管3センチになりました」と教えてくれました。
良かった…。
後で夫が塩ティ先生から説明を受けたところによると、子宮頸管1.8センチという状況に加え、子宮口が指一本分開いていたそうです。
子宮口が1センチ開くと、2週間とか、人によっては2日後とかに破水したりするらしいので、あのまま手術を受けなければ、赤ちゃんが確実に出てしまっていたのだとゾッとしました。
手術後
手術後は、オムツ的なものをつけてもらってベッドに寝たまま病室に戻ります。
未だに自分の足がどんなポーズになっているかわかりません。麻酔が切れるまでは4、5時間。尿道カテーテルにつながれてベットから起き上がってはいけません。
翌朝までこのままです。腰が死にますが、まああと20時間弱耐えればいいだけです。
麻酔のせいで寒くて、電気毛布を入れてもらっても寒い。熱も高い。心臓は相変わらずバクバクで、手も震えています。
5時間くらいかけて麻酔が消えていくふわふわとした身体の感覚を楽しみながら、ひたすら時が経つのを待ちます。
麻酔が切れた後も痛みはなく、塩ティ先生の手術がうまかったのだなと感動。
朝が来て、膣を消毒してもらい、尿道カテーテルがはずれスッキリ。
貧血の数値が出ていたということで、点滴に鉄剤が加わりました。アメデオパワーアップ。
これから先どうなるかまだまだわかりませんが、まずは子宮頸管を縫縮してもらったことで赤ちゃんが生き延びられる可能性が増えたことが、とても嬉しいです。
あとは信じて、ひたすら安静に過ごそう。