糖尿病専門医研修ガイドブック第9版について思うところ
糖尿病専門医研修ガイドブック第9版が出題範囲になるが執筆者が多数いるため、どうしても重複する内容が多くなる。それぞれ足りないところもある。一方でそれぞれ記載されている内容が矛盾するところも出てきている。そのため、気になったところをつらつらとまとめてみる。
あと、シンプルに記載が合っているのか不明なところもあるのでそこも書いてみる。指摘があればコメントにお願いします。思い出したら追記します。(著作権に配慮して図などは省略)
p32 血糖調節機構とその異常
図1 健常人における血糖応答とその制御因子
上から2段目「肝ブドウ糖放出率」(HGO)とあるが、同様の図を参照すると肝ブドウ糖産生(hepatic glucose production:HGP)ではないか。HGO=HGPと考えてよいのか。
((参考))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tonyobyo/49/10/49_10_771/_pdf
ABIの基準
p160 検査結果の解釈
異常低値(0.90以下)
ボーダーライン(0.91~0.99)
正常(1.00~1.40)
異常高値(>1.40)
p366 c 診断 1)足関節上腕血圧比(ABI)
「ABI 0.9以下であればPADと診断するが、0.9~1.0も境界域として経過観察することが望ましい」
→この微妙なところは試験で触れないで欲しい。
n-3系多価不飽和脂肪酸について
p217 脂質
「n-3系多価不飽和脂肪酸の糖尿病管理における有用性は確認されていない」文献は糖尿病診療ガイドライン2019
p511 食事療法
「n-3系多価不飽和脂肪酸には、TG低下やインスリン抵抗性改善作用、さらには血小板凝集抑制、血管内皮機能改善が期待され…」
文献はCirculation 2006; 113 195-202
→インスリン抵抗性改善作用はあるが糖尿病管理に有用性はないということなのか。
SMBGの適応について
p115 「最近では、GLP-1受容体作動薬を自己注射している2型糖尿病にも適応が広がっている。また、妊娠を希望している女性、妊娠糖尿病患者も絶対的な適応である。」
特集 糖尿病 67(3):139~142,2024
「GDM で血糖自己測定を保険算定できるのは,①75 g OGTT 2 時間値 200 mg/dL 以上かつ HbA1c 6.5 %未満,②75 g OGTT が 2 点以上陽性,③非妊娠時 BMI 25 以上で 75 g OGTT 1 点陽性の場合」
→紛らわしいが、絶対的な適応と保険適応は異なるということか。
p145 進行性全身性硬化症
現在は使用されていない用語で「全身性強皮症」と呼んでいる
((参考))https://www.dermatol.or.jp/qa/qa7/s1_q13.html
起立性低血圧、Schellong試験
p343
「仰臥位で収縮期血圧を測定した後、起立させ立位での収縮時血圧が20mmHg以上低下すれば【起立性低血圧陽性】である」
p347 Schellong試験
「一般的にはEwing法に従い、起立後3分以内に収縮期血圧で30mmHg以上の低下あるいは拡張期血圧で10mmHg以上の低下となる。収縮期血圧が11~29mmHgの場合は境界型としている。一方、現在のガイドラインでは収縮期血圧20mmHg以上の低下あるいは拡張期血圧で10mmHg以上の低下を陽性としている。しかしながら、収縮期血圧の低下量のcut-offを30mmHgとするのか、あるいは20mmHgとするのかは、感度特異度の点からそれぞれ一長一短があり、以前、一定のコンセンサスは得られていないのが現状である。
起立負荷の方法としては…Shellong試験は患者をベッド上安静仰臥位の状態で血圧と脈拍を……。収縮期血圧が20mmHg以上降下した場合に陽性とする。」
→Shellong試験は20mmHg以上の低下を陽性とするが、起立性低血圧の基準はまちまちのよう。解釈が難しい。
ピオグリタゾンによる脳梗塞の予防
p364 糖尿病治療薬による心血管イベント抑制
「近年のIRISでピオグリタゾンの虚血性脳血管イベント抑制が示されたが対象は非糖尿病のインスリン抵抗例であった。」
p357 慢性期(二次予防)
「糖尿病の治療的介入による血糖管理にて脳梗塞再発予防効果を得たエビデンスはないが、インスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾンの治療により、全死亡及び脳卒中を含む血管イベントの発生が有意に抑制されたことを証明した報告がある」
((参考))J Neurol Sci 2010; 288: 170-174.
→元文献は読めなかった。糖尿病患者の脳梗塞予防に対してピオグリタゾンの予防効果はあるのか。
レプチン p517 図1
肥満症におけるレプチンについてp516には以下の記載がある。
「体脂肪量に比例して血中レプチン濃度が上昇し、レプチンの作用障害(レプチン抵抗性)が想定されている」
図1では肥満細胞がレプチンを抑制方向に示す方向になっている。
p128 グルカゴン 2⃣評価法
「糖尿病患者では、空腹時グルカゴン値は健常者に比べ高い傾向であり、正常範囲であっても、血糖値に比べると高値であることが多い。特にOGTT時に差が顕著となる。OGTT時、健常者では血糖値の上昇に伴いグルカゴンは低下するが、2型糖尿病患者では上昇傾向を示すことが多い。」
以下のグラフはp128の図13と同じもので75gOGTT施行時のグルカゴン血中濃度のグラフである。 Endocrine Journal 2020 Volume 67 Pages 903-922 Fig1から引用している。赤が2型糖尿病患者、青が健常者である。(ちなみにガイドブックは逆になっており訂正が発表されている。https://www.shindan.co.jp/seigohyo/pdf/2574_1.pdf)
文献では「 Plasma glucagon levels measured by sandwich ELISA decreased after glucose loading and then returned to the initial level in healthy subjects (Fig. 1C). By contrast, plasma glucagon levels in T2DM patients were significantly higher at the fasted point and showed a delayed decrease after glucose loading compared with the healthy subjects (Fig. 1C)」
と記載があり、OGTT時にはshowed a delayed decrease after glucose loadingとあるので、上昇傾向を示すのではなく減少が遅れていると表現されている。グラフの見た目的にも上昇傾向は示しているように見えない。
→ここら辺も試験に出やすい範囲なので出題されると解釈に困りそう。
![](https://assets.st-note.com/img/1730707518-7VLvnsRcMTIgpmwFfEW98BOl.png)
肥満症手術の保険適応
これに関しては時々刻々と変化していくので最新の情報を探すのが良いと思うのだが、officialなページがインターネットでも見つからない。今のところ(2024/11/4時点)新しいのはhttps://www.kakohp.jp/news/bariatric_surgery_20240315.htmlこちらのサイト。(2024/6改定)
新たに適応になった腹腔鏡下スリーブ・バイパス術についてはhttps://www.mcube.jp/news/20240401_2.htmlこちらのサイトが新しいと思う。(2024/6改定)
ガイドブックではp187とp521に手術適応が記載されているが、p521は1個くらい、p187は2個くらい古いと思う。同じ版なら、足並みは合わせておいて欲しいが執筆者が多くvolumeの多いガイドブックでは難しいのかもしれない。
糖尿病性ケトアシドーシス・高血糖高浸透圧症候群
p309 表3とその下の数値の記載が異なる
HHS 表 血糖値600-1500 本文 800以上で時に2000mg/dlに達する
単純な疑問
DKAにはK補正の記載がある。(初期 K≦5mEq/L)
HHSにはK補正の記載がない。救急・集中治療の文献では同様にK補正が記載されているが、基準は同じで良いのか異なるのか。
→試験問題でK補正の開始濃度が触れられることがある。HHSについては問われてはなさそうだが出たらどうするか迷いそう。
MODY3の治療
研修ガイドブック p94
「MODY患者は若年発症であることから1型糖尿病と誤って診断され、診断直後からインスリン治療を受けている例が少なくないが、MODY1やMODY3の患者においては経口血糖降下薬であるスルホニル尿素薬に対する反応性が保たれていることが明らかとなっている」
研修ガイドブック p188 1)若年発症成人糖尿病
「HNF1A異常によるMODY3やHNF4A異常によるMODY1は、非肥満、若年発症などから1型糖尿病と誤って診断され、インスリン治療を受けている例が少なくないが、膵β細胞におけるATP感受性K+チャネル以降のインスリン分泌経路は比較的保たれており経口血糖降下薬であるスルホニル尿素薬が有効であることが多い。」
難病情報センターHP
「MODY3では重症例が多くてインスリン治療が必須となる場合が少なくないですが、一方で、2型と異なりインスリン依存であってもスルホニル尿素薬の作用経路が保持されるので同薬が著効する場合があります。」
→テキスト上ではインスリンが必要となる記載はないが、難病センターの情報では実際はインスリンを要する症例もかなりありそうな書かれ方である。
実際に経験したことはないので実感とかはない。
試験ではMODY3でインスリンが必要になるのはまれ・・・(答:おそらく×)とさせる問題があった。クリアには書かれていないがインスリンが必要となることも多いと捉えた方が良さそう。
p274 経口血糖降下薬との相互作用ならびに併用禁忌
エプレレノンに対する記載。タイトルの相互作用・併用禁忌とはあまり関係ない気がするが「高カリウム血症の誘発リスクから微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病で禁忌となっている。」の記載がある。
エプレレノンは高血圧症と慢性心不全で禁忌が異なる。
腎機能、Kに関連する項目だと禁忌項目は
<共通>
・高カリウム血症もしくは投与時にK 5.0を超えている。
・重度の腎機能障害(CCr 30未満)
<高血圧症>
・微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者
・中等度以上の腎機能障害(CCr 50未満)
・K製剤投与中の患者
が該当する。(添付文書より抜粋)
テキストの記載項目は高血圧症に限定して禁忌項目となっており心不全患者に対する処方であれば投与可能だと思う。