イイワケ・タヌキ
イイワケ・タヌキ
ワザとじゃないもん。タマタマだもん。
タヌキのボテ太は言い訳ばかり。
口に出しては言わないけれど、心の中はイイワケばかり。
教室の花瓶を割ったのも、たまたま当たっただけだもん。サボった奴は叱られないのに、どうしてボクだけ叱られる。せっかく掃除をやったのに、どうしてボクだけしかられる。
なんでいっつもボクなのよ!ボクがそんなに悪いのか。口に出しては言わないけれど、心の中はイイワケばかり。心の中はイイワケばかり。
クラスのタノ美にぶつかって、泣かせてしまったあの時も、ごめんなさいとあやまったけど、心の中はいいわけばかり。ワザとじゃないもん。タマタマだもん。ホントは僕は悪くない。
テストの点数悪かったのも、ケアレスミスが多いだけ。勉強ちゃんとやったのに、答えもちゃんと分かってたのに、ケアレスミスが多いだけ。
あんなにちゃんと頑張ったのに!なんでいっつもボクばっかり、心の中はイイワケばかり。
おもちゃを買ってもらった時も、すぐに壊してしかれたけど心の中はイイワケばかり。だってそうだよ。知らなかったんだもん!こんなことで壊れるなんて!もし知ってたら、壊さない。ワザとじゃないもん。ホントだもん。口に出しては言わないけれど、心の中はイイワケばかり。
だってだってよ。ホントだもん!こんなくらいで壊れるなんて!ゼッタイどっかオカシイもん!ワザとじゃないもん。タマタマだもん。ホントは僕は悪くない。
ごめんなさいと言いながら、下を向いているボクを見て、ボテ太のパパはこう言った。
壊れる前に、考えた?どうなるかなって考えた?
テストが終わって考えた?見直しすればって考えた?
何かを頑張る前と後、大きく息を吸い込んで、どうなるかなって考えてごらん。
ワザとじゃないもん。タマタマだもん。知らなかったんだモン!みんなほんとは違うはず、ちゃんと考えていなかっただけ。
ほんとにそれに気づいたら、ごめんなさいが、言えるはず、下を向かずにいえるはず。
ボテ太はゆっくりうなずいた。
次の日の掃除の時間にやってみた。机を動かす前と後、周りに誰かがいないだろうか。ゆっくり息を吸い込んで、右も左も確認をした。
一緒にアソボって呼ばれたときも、ゆっくり息を吸い込んで、右も左も確認をした。
そしたら、先生に褒められた。きれいな字が書けるようになったって褒められた。ご飯の時も褒められた、きれい食べるって褒められた、今まであんなにボロボロと机いっぱいこぼしてたのに、きれい食べたって褒められた。
ワザとじゃないもん。タマタマだもん。
タヌキのボテ太は言い訳は、だんだんだんだん少なくなった。
そんな時、廊下の向こうで声がした。大きな大きなことがして、慌ててみんなで駆け付けた。
タヌキのボテ太の友達の、ポヌタとタノ美が泣いていた。給食のごはんやおかずが散らかって、その真ん中で泣いていた。
どっちが悪いか知らないけれど、みんなでご飯を片付けた。ポヌタとタノ美も泣いたまま、ごめんなさいと謝った。
みんなが二匹を責めたけど、ボテ太もなぜか下をみた。
ワザとじゃないもん。タマタマだもん。ホントはボクは悪くない。二匹の心が聞こえた気がした。
だいじょうぶだよ!みんなの為に運んでくれて、たまたまちょっと失敗しただけ。二匹にそっとそう言った。だってそうだよ、その気持ち。僕にはちゃんと分かるから。ポヌタもタノ美も、真っ赤な顔で、小さくボクに微笑んだ。ワザとじゃないもん。タマタマだもん。心の中の言い訳は、きっと誰かを許すため。頑張ったのにと、泣いている、誰かのミスを許すため。
おしまい。