![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/89197461/rectangle_large_type_2_7a4690bc786aeb0cb66ef928c797c59b.jpeg?width=1200)
おたねさんちの童話集 「小ダヌキ・タヌルの相談所」
小ダヌキ・タヌルの相談所
「大きくなったら何になる?」
みんながみんな、聞いてきます。
「大きくなったら何になる?」
どうして、そんなこと聞くの?
小ダヌキ・タヌルは分かりません。そんなのゼンゼン分かりません。
学校の先生に聞かれたけれど、そんなのゼンゼン分かりません。
「大きくなったら、歌手になる!」
キツネのホクスは言っていたけれど、小ダヌキ・タヌルは分かりません。
「大きくなったら何になる?」
「そんなの分かる訳がない!」
「そんなの分かる訳がない!」
ねえねえ、どうして尋ねてくるの?
小ダヌキ・タヌルは分かりません。そんなのゼンゼン分かりません。
オトナになればわかるかな?
一回、オトナになってみよう!
小ダヌキ・タヌルは考えた。
オトナになればわかるかな?
一回、オトナになってみよう!
小ダヌキ・タヌルは葉っぱを一枚とってきて、頭の上にのせてみました。
ドロロンドロンと呪文を唱え、煙モクモク大変身!
小ダヌキ、タヌルは大ダヌキ。見た目は立派な大ダヌキ!
だけど、ゼンゼン分かりません。
大きくなっても分かりません!
見た目は大きくなったけど、やりたいことは分かりません。
小ダヌキ・タヌルは考えた。大きなカラダで考えた!
「そうだ!分からないなら、聞けばいい!」
いいこと、いいこと、考えました!
小ダヌキ・タヌルは膝を打たずに、腹をうちます。
「僕って天才!大天才!!」
小ダヌキ・タヌルは、ニタリニタリと笑うのでした。
「そーれ、それそれ!ポンポコポン!」
小ダヌキタヌルは、木を切って、大きな看板立てかけました。
「何でもカイケツ相談所!!みんなのお悩み待っています!」
オトナのナヤミを聞いたなら、なりたいことも分かるはず。
「僕って天才!大天才!!」
小ダヌキ・タヌルはもう一度腹をうちました。
「そーれ、それそれ!ポンポコポン!」
陽気なタイコに誘われて、真っ黒カラスがやってきました。
オシャレなオシャレな真っ黒カラス。第一号のお客様!
「おねがい、ポンポコタヌキさん。ちょっと相談聞いてよね!」
「はいはい。オシャレなカラスさん。いったいどんなご相談?」
「向こうの森のケーキ屋さん。可愛い可愛いリスさんの、美味しい美味しいケーキ屋さん。あんまり美味しいケーキ屋さん。一緒に私も作らせてってお頼みしたの!だけど、ダメだって言われたの!真っ黒カラスに似合わないって!だからエンエン悲しくなって、ポンポコタヌキにご相談!」
小ダヌキ・タヌルは大笑い!だって初めて聞いた相談が、僕ら子供と同じだもん!
「なんでそんなに笑うのヨ!」
真っ黒カラスは怒るけど、小ダヌキ・タヌルは大笑い!
「だって、リスさんのケーキは可愛いんだもん。カラスさんには似合わない。オシャレなチョコや宝石だったら、オシャレなカラスさんにも似合うのだけれど、可愛いリスさんのケーキには、やっぱりちょっと違うでしょ!」
小ダヌキ・タヌルは大笑い。あまりに楽しく笑うから、つられてカラスさんも大笑い。
「そうね、そうよね、そういうことね。私がいたら、違うケーキにみえてくる。オトナのケーキじゃ可愛くないわね!言われてみればそのとおり」
オシャレなオシャレなカラスさん、大笑いして出て行った。
「おねがい、ポンポコタヌキさん。ちょっと相談聞いてよね!」
やってきたのは、郵便屋さん。ヒゲが自慢のヤギさんでした。
「はいはい。なんでしょ、郵便屋さん。シロヤギさんのご相談!いったいどんなご相談?」
「じつは、その、あの、あれですの。みんなが私を疑うのです。ホントは紙など好きじゃないのに、みんなが私を疑うのです。私が手紙をたべないか、みんなヒヤヒヤ心配ばかり。ホントに手紙は食べないのです。でも、絶対誰も信じてくれません」
小ダヌキ・タヌルは大笑い!だって、やっぱり今度の相談も、僕ら子供と同じだもん!
「なんでそんなに笑うのヨ!」
「はいはい。まじめな郵便屋さん!こんなにまじめなヤギさんが、そんなことなどするわけないよね。そんなのみんなが知っています。それでも、もしも、しんぱいならば、郵便鞄のお隣に、おやつのポーチをつけりゃいい!、おやつはここに入っていますって!大きな文字で書けばいい。そしたらみんな、そんなこと。ぜったい誰も思わないから!」
小ダヌキ・タヌルは大笑い。あまりに楽しく笑うから、つられてヤギさんも大笑い。
「そうね、そうよね、そういうことね。私がひとりで思ってただけ。心配だったら、そうすればいい!言われてみればそのとおり」
まじめなまじめなヤギさんも、つられて笑って出て行ていきました。
「大きくなったら何になる?」
オトナに聞いてもわからない。
分かったことはただ一つ。オトナもやっぱり悩んでる。コドモみたいに悩んでる。
「そうしたら、やっぱり、そうなのかなあ」
小ダヌキ・タヌルは考えました。でもでも、やっぱり信じられなくて、やっぱり、考えるのをやめたのでした。
でもね、でもね、でもなのよ。困ったことに、やってきました。見つかったのか、わからないのか。やってきたのは。パパでした。
小ダヌキ・タヌルのパパさんが、タヌルのところへやってきました。
ヤバイヤバイよ。どうしよう!
やっぱりパパに叱られる!
みつかちゃったら叱られる!!
だって、パパは恐い顔。いつもと違って恐い顔。
小ダヌキ・タヌルは逃げようとしました。
あんまりパパが恐い顔でしたから、小ダヌキ・タヌルは逃げようとしました。
だけども、パパは気づきません。小ダヌキ・タヌルと気づきません。
「あの、その、ちょっと教えて下さい。」
恐い顔したパパがいいました。
「やっぱり、今年も落ちたのでした。ポンポコ山のマジック大会。今度こそはと思っていましたが、やっぱり今年もムリでした。年も年だし、どうしましょう。コドモもずいぶんおおきくなって、そろそろ引退しなければならないことも分かっています。だけども、それでも、ここまできたから、やっぱりきっぱり優勝したいの!ぜんぜんぜんぜあきらめられない。道具にお金もかかってしまうし、働く時間も少なくなるし、みんなにみんなに迷惑ばかり、だけども、やっぱりあきらめられない」
タヌルのパパは恐い顔。やっぱりやっぱり恐い顔。
小ダヌキ・タヌルは驚きました。
パパもやっぱり、悩んでいます。パパもやっぱり頑張っています。
小ダヌキ・タヌルは驚いて、ゼンゼン答えがでてきません。
「いいんだ。いいんだ。答えなんてないさ。ただただ聞いて欲しかっただけ」
小ダヌキ・タヌルは驚きました。
あんまり優しい顔だったから。
小さな時にみたような、優しい優しいパパの顔!
タヌルのパパは返っていった。
夕焼けお空に、長いカゲ。
パパの背中が小さく見えました。
「大きくなったら何になる?」
「大きくなったら何になる?」
そんなのまだまだ、わからないけど、タヌルは少し考えました。
パパみたいなマジシャンになろうかな。
「大きくなったら何になる?」
「大きくなったら何になる?」
そんなのまだまだ、分かりません。
タヌルはやっぱろ決められません。
だけど、分かったことはあります。
オトナになっても、コドモといっしょ!
みんながみんな、頑張っています。
タヌルのパパも見えないとこで、やっぱり、悩んで頑張っています。
「大きくなったら何になる?」
「大きくなったら何になる?」
そんなのまだまだ、決められません。
タヌルはまだまだ決められないけど。
「大きくなっても、がんばろう!」
「決められないけど、がんばろう!」
「まだまだ、なんにもわからないけど、大きくなってもがんばろう!」