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おたねさんちの童話集「サルモン山のサルサとモロン」

サルモン山のサルサとモロン
 
「ああ、サルサ。あなたはなぜサルサなの?」
恋しいモロンの悲しげな顔に、猿のサルサは下をむいた。
 両親も最初から反対していた訳じゃない。
 サルモン山の警察署長を務めるモロンのお父さんだって、消防署長を務めるサルサのお父さんだって、二匹の猿をお似合いだと喜んでくれていたはず。
 新居を相談していた時だった。婦猿警官のモロンは言った。「肝心なのはセキュリティ!あちらもこちらも鍵を付けて!」けれども火消しのサルサは首を振る。「そんなに鍵が多かったら、万が一火災が起きた時に逃げ遅れちゃうじゃないか!」
 痴話ゲンカみたいなもののはずだった。けれど二匹の両親が、それぞれに出てきたからややこしくなる。 「やっぱり結婚相手には警察官が一番だ!もうあんな奴とは別れてしまって、こいつと結婚しなさい!」
 モロンのお父さんは、部下のモンキチを連れてきた。サルサのお父さんだって負けていない。サルサの幼馴染のサルミを連れてきた。
「火消の奥さんには、火消の娘が一番だ!婦猿警官なんか、とっとと忘れちまいな!」
 それだけだったら、なんとかなった。けれども話はそれで終わらない。なんとサルサの家に空き巣が入った。盗られたものは多くはないが、モロンのお父さんが大笑いして言ったんだ。「ほら見ろ。俺の言う通り!泥棒は入りやすそうな家を狙うんだ。こんなに鍵が少なくて不用心な家だから、狙われたって当たり前!」サルサのお父さんはもうカンカン!「たとえ火災が起きたって、あいつの家だけは助けてやるもんか!」
 本当にモロンの家で火災が起きた。外出中の火事だったから、家族がみんな無事だったけれど、なにぶんあちこち鍵だらけ。食料もお金も思い出の品々も、いろんなものが燃え尽きた。「ほらみろ、あんな鍵だらけの家。外出中で良かったものの、家の中にいたら逃げ出すこともできなかったぞ!」サルサのお父さんもそう言って笑った。「他猿の不幸を笑うなんて!」モロンのお父さんも、烈火のごとく怒りだす。
 「ほんとは、あいつらが自分で火をつけたんじゃないのか!」警察署長のモロンのお父さんはあまりに怒って、消防署への立ち入り捜査を開始した。もちろん、さすがに消防署が放火をするなんてあり得ない。真犯猿はつかまった。コソ泥のエンボウだった。前に捕まえられたことの逆恨み。サルサのお父さんの疑いは晴れたけれど、二家族の怒りは収まらぬ。
「ほんと、オレたち、これからどうしたらいいんだろうな。」サルサは恋猿のモロンの顔をみつめた。「ほんと、どちらかがホントに悪い猿だったら、踏ん切りがつくんだけれど」
「ほんと、そう!消防の猿たちも警察の猿たちも、みんな山の安全を一番に考えているだけなのに」「そうだよな!山のみんなの幸せを考えているだけなんだ」「なのにどうして子供たち二匹の幸せは考えれないの?」
 サルサもモロンも大きなため息をついた。
 「財産を守るだけなら、火災にまけない金庫にすればいいだけなのに」「でも、お家に鍵をかけるのは悪い猿に襲われないためでしょ!」「じゃあ、秘密の逃げ道を作っておくのはどうかな。」「エドザル時代の昔じゃないんだから、他の猿の土地の地下にトンネルなんて出来るはずないでしょ!」「だったら全部の部屋にスプリンクラーをつけるとか?」
「そんなの一体いくらすると思っているの!水道代だってバカにならないわ」「仕方がない、だったらせめて全部の部屋に消火器を置こう!」「ちょっと待って!「部屋が多すぎるんじゃないかしら。もっとシンプルで小さなお家にして……。」「ドアと貴重品をしまう金庫だけを頑丈にすれば!」
 サルサとモロンはお互いに顔を見合わせた。そうだよ。二人だ考えたなら、きっとだんだん良い家になる!
 サルサとモロンはみんなを呼んだ。警察署のみんなも消防署のみんなも全員呼んだ。そうして新しくできたお家の図面をみんなに見せてこういった。」ゼンゼン立場は違うけれど、みんなで一緒に考えたなら、きっともっといいものが出来るはず。サルモン山の幸せも、サルサとモロンのお家と同じ。片方だけはダメなはず。みんなの立場で考えたなら、みんながもっと幸せになる!」
 一同一緒にうなづいて、みんながみんな笑顔になった。
 「ああ、サルサ。あなたはなぜサルサなの?」モロンは笑ってそう言った。「ああ、モロン。あなたはなぜモロンなの?」サルサも笑って真似をした。

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