おたねさんちの童話集「屋根裏ネズミたちの年の暮」
屋根裏ネズミたちの年の暮
年の暮れ。
おじいさんとおばあさんは、せっせとお団子を作っておりました。
「ばあさんや。神様にお喜び頂く大切なお団子だから、今年も心を込めて作ろうな」
「はいはい。じいさん。わかってますよ」
その様子を天井裏から眺めていたのは、ネズミの兄弟たちです。
「やったー!今年もおいしそうなお団子が食べられそうだなあ」
チューイチロは、そう言ってニヤニヤしました。
「駄目だよ。神様にお供えする大切なお団子なんだから」
「チュウシロはそう言いながら、今年もちゃっかり食べるくせに……」
「だって、去年もおじいさんとおばあさん、全然怒らなかったんだもの」
「そうそう!そんなことくらいで神様が怒るはずがないって笑ってたんだもの」
「最後には、あの用心深い小鳥たちだって、一緒になってつまみ食いをしていたんだから」
「そうだよ!ちゃんとボクらの分も残しておいてよ!」
梁の上からはスズメの兄弟も、おじいさんとおばあさんが団子を作る様子を眺めています。
「最初はおじいさんやおばあさんから見つからないように、ちょっとずつ食べてたのに……」
「あんまりおいしいものだから……」
「ついつい手が止まらなくなって……」
「結局、みんなで全部食べちゃったんだよ」
「でも……」
「おじいさんもおばあさんも……」
「怒るどころか、来年はもっとたくさん作ってあげるからねって!」
「お正月になったら……」
「子供たちや孫さんたちがたくさん集まってくるから……」
「みんなのために……」
「おせち料理も……:
「たくさん作らないといけないのに……」
ネズミの兄弟たちやスズメの兄弟たちがチューチューピーチクしゃべっていると、
「ばあさんや、今年もおいしそうにだきたね」
「はい。おいしそうにできましたね」
「じゃあ、さっそく神様にお供えさせていただくとしよう」
「はい。そうしましょう」
今年もおいしそうなお団子が神様の前に並べられました。
次の日、おじいさんとおばあさんはお正月のおせち料理を作りはじまました。
「ばあさんや。正月にはみんな帰ってこれるかのう。去年は、サブロ家族から下の家族しか返ってこられなかったからのう」
「さあ、どうでしょうね。だんだん子供たちどころか孫たちも忙しくなってきたみたいだしねえ」
おじいさんとおばあさんが仲良くおせち料理を作っていると、やっぱりネズミたちも屋根裏に集まってきました。
「そうそう。あんまりみんな集まらないで!そうしたら僕らの食べるぶんが増えるんだから」
「何言っているの!ほんとにみんなこなくなっておじいさんとおばあさんがおせち料理を作るのやめてしまったら、どうするの!」
「それは、こまる。ダメダメ絶対にダメ!」
「でも、去年。帰る前に、あんなこと言っていなかったっけ?」
「そうそう、おじいさんとおばあさんがいないときに、今年で最後かもなって!」
「だったら、今年、誰もこないの!」
「そんなの、おじいさんもおばあさんもかわいそうじゃないか」
ネズミたちは、急に黙ってしまいました。
「そうだ!みんなでおじいさんやおばあさんの子供たちの様子を見に行こうよ!」
「いいけど。誰か子供たちの家がどこにあるか知っているの?」
「そんなのおばあさんが部屋に大きく書いて張ってあるじゃないか。ちゃんと、それぞれの家族の写真と住所と電話番号がすぐにわかるようになってるし……」
「でも近くのおうちはいいけれど、遠いおうちはどうするの?」
「そんなの小鳥どもに頼んだらいいじゃないか。あいつらもお団子を食べているだから」
「よし!決まり!」
「あと……」
「なんだよ。早く言えよ」
「あのね」
「だから、なんだよ」
「おうちを見つけたとしで、どうやって、このうちにきてもらうの?」
「そりゃ……」
「……簡単なことだよ」
「だからなんだよ」
「みんなが、ちゃんと協力さえしてくれたら、簡単なことなんだ」
「だから、どうしろっていうのさ」
「だから、お団子を一個ずつ届けるんだよ。これだけおいしいお団子だよ。一口食べたら、懐かしくなって帰ってくるに決まっているじゃないか」
「でも、探す途中で誰かが食べてしまったら?」
だから言っているだろ!みんなが、ちゃんと協力さえしてくれたら、簡単なことなんだ……たぶん」
「よし!そうと決まったら、みんなで頑張ろう!一人で運んだら我慢できないけれど、みんなで見張りながらだったら我慢できるし!」
「だって、来年も、その次の、ずっと食べたいだろ。お団子もおせち料理も!」
「よし!エイエイオー!!」
やがて、お正月がやってきました。
「どうしたの、みんな。今年はもう無理だって言っていたじゃないか」
おじいさんの声も、おばあさんの声も、なんだかうれしそうに聞こえます。
「ちゃんと渡したんだね!」
「お前もな!」
屋根裏部屋のネズミたちも、なんだか賑やかです。
「でも、これだか集まったら、僕らのおせち料理なくなっちゃうんじゃ……」
「ダイジョブだよ!みてごらん!」
神棚には、いつもよりたくさんのおせち料理がお供えされていました。おしまい