おたねさんちの童話集「タヌキのハラボン」
タヌキのハラボン
タヌキのハラボンは面接官の前に座って本当に緊張していました。
面接官といっても、目の前にはビデオカメラが一台。いや、正確に言えば、目の前に設置されているカメラが一台ですが、この会社へ入ってから既に十数台の隠しカメラが面接会場を訪れた学生たちを追っているはずなのです。
しかし、普段であれば数人は姿を見せるはずの社員達も今日はいません。
会社へ一歩足を踏み入れると、直ぐにスピーカーから声が流れました。
「いらっしゃいませ。面接にこられたハラボンさんでしょうか」
ハラボンが、「はい」と答えるとすぐにA会議室で待つようにと支持されました。
「お名前と出身校、年令、住所等、必要事項を画面にインプットして下さい」
ハラボンが必要事項をインプットし終えると、生年月日や祖父母、両親、兄弟、所属クラブ、宗教など、僕に関する様々な情報が画面に映し出されたのです。
「これに相違はありませんね」
この問いにすぐ、「ハイ」と答えてはならない事は、今や面接の常識となっています。
画面に必ず数カ所間違いが儲けてあり、これを正確に訂正できないようでは、まず入社は望めない。替え玉入試の防止にもなるし、また注意力を試すテストでもあるのですから。
次にハラボンは、心理テストを受けることになった。会社は様々な人間を取り入れる為に、十数種類に分けた人間を最も効率の良い割合で入社させる為に、個人の能力以外にも、この様なことを重視するのです。とはいえ、これについてはハラボンも調査済み。
ハラボンはこのうち、Fタイプのタヌキに属することを既に調べていて、しかもこの会社に最も必要なタイプに属することも知っているのでした。
もちろん、このようなタイプよりも個人の能力を重視する会社も多いのですがが、この会社はまずタイプを見極めた後、個人の能力を確かめる傾向が強いらしいのです。。
ハラボンは次に希望の部署を尋ねられました。
「営業です」僕は、わざと堂々と答えました。
営業ではお腹を何度も何度も叩いてアピールしなければならないので、実はハラボン、そんなに好きではありません。でもこの会社で出世を考えるなら、まず営業に入らなければならないのでした。
「F会議室にお入り下さい」
F会議室には、新聞とコンピューター、ランニングシューズと本が、それぞれ一冊ずつ置いてありました。
ハラボンはこの四つを画面に向かって、それぞれのものをお腹を叩いて売りつけなければなりません。
しかも画面に映るタヌキの顔は次々に変わってゆきます。
合計十人に、それぞれ四種類の物をポンポンポンポンと売りさばかなければならないのです。
こうして今ハラボンは、へとへとに疲れながらも、面接官、つまりカメラの前に座っているのです。
合否の判定まで後三十分。普通であれば、ここで数問の質問と、あと自己ピーアールの時間が与えられるはずなのですが、今回はそれもなく非常に静かな時間でした。
否、静かというより、音のない空間に放り出されたような気さえします。しかし、ここであくびでもしようものなら、減点の対象。ハラボンは必死でガマンした。
やがて面接会場に声が流れます。
「合格です。こちらの条件は三十個、三十年で、九百万、ポンポコドル」
ハラボンは首をふりました。
「ポンポコドルはこれから下がる予定だ。タヌボコドルにしてくれ」
契約は成立し、ハラボンの複製が三十体作られました。
ハラボンは五百万フランを手にし、会社を出て行きました。
ハラボンは家に着くと、お父さんに九百万ポンポコドルを手渡して、好物のビスケットを貰いました。
お父さんはハラボンを檻にしまいます。
そうしてお父さんはハラボンの脳に埋め込んだチップのデータを自分のコンピュータに移してチェックしていくのです。
「優秀なハラボンの育て方。~販売用タヌキ型ロボット・ハラボンを売り込む方法~」
やがて、会社からお父さんに電話が入りました。
「どうも不具合が見つかったようです。このハラボンは営業に向いていないようです。お腹の叩き方に問題が……」
……お父さんは、僕からビスケットを取り上げました。
そうして無理矢理、僕の大切な電源を…………。