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おたねさんちの童話集「ぼくのお家は保育園」

  ぼくのお家は保育園
 
「いいな~、園長先生がママなんでしょ!」
「いいな~、ダイくん。一日中ブランコとかスベリ台であそべるんでしょ!」
 アカネちゃんも、ユウくんも、保育園のお友達はみんな「いいな~」っていうけれど、ダイくんは、あんまりうれしくありませんでした。だって、ママは、みんなの園長先生なのですから。保育園の終わる時間がきたら、お友達はみんなパパやママが迎えにきてくれるのに、ダイくんだけずっと保育園にいます。保育園の中にある園長宅が、ダイくんのお家だからです。それにママは、保育園が終わっても、ずっと忙しそう。ずっと誰かと電話でおしゃべりしたり、自転車でお外にいったまま帰ってこなかったり。パパも、お仕事でめったに帰ってこないのでした。
「いっしょにあそぼ!」
 ブランコを漕いでいたダイくんはビックリしました。だって夕暮れの園庭には誰もいないはずです。
「こっちへおいでよ!」
 ダイくんは、もう一度あたりをキョロキョロと見回しました。
「こっちだよ!こっち!」
 オンボロ園舎の屋根の上でした。猫でした。足だけが黒い、パンダみたいな猫でした。
「こっちへきなよ!いい景色だよ!」
「でも……」
 前に一度、屋根の上に登って叱られたことがあったのです。
「あ~した天気にしておくれ!」
 ブランコを漕ぎながら、思いっきり飛ばしたクツが、屋根の上に飛んでいってしまったのでした。そのクツを取ろうしたら、
「危ないからすぐに、おりなさい!」
 あんなに叱られたのは、初めてでした。
「ダメだよ!ママに叱られちゃうもの!」
「大丈夫だって!平気だよ!」
 パンダみたいなヘンテコな猫は、ピョンピョンはねて、あっという間に飛び降りました。
「こっちへおいでよ!」
 ヘンテコな猫があんまり手招きをするものですから、ダイくんはフゥっとため息をいて、ブランコから飛び降りました。
「こっち!こっち!」
 ダイくんはスベリ台のてっぺんから屋根の上に飛び移りました。
「こっち!こっち!」
 古い木造園舎の一番高い屋根の上です。
「みてごらん」
 初めて見る景色でした。近所の児童公園も、裏山も、真っ白なお城だってみえました。
「ほんと!きれいだね」
 その日から、ダイくんは、ヘンテコな猫と毎日、ママに隠れて屋根の上に登りました。
 夜にはきれいな星空がみえました。お月様もなんだか大きくなったよう。夕焼けだってとってもきれいでした。 ダイ君は毎日屋根の上に登りました。
 でも、その時は、急に起こったのです。
「ダイくん!晩ご飯ですよ!」
 ママの声でした。
「しまった!見つかっちゃう!」
 そう思った瞬間でした。
「すぐにおりていらっしゃい!」
 大きなママの声に驚いて、ダイくんは足を滑らせてしまったのです。
「ドドドドド!ガシャガシャ!ドーン!」
「ピーポーピーポーピーポー」
「ダイくん!ダイくん!しっかりしなさい!」 
 遠くの方でママの声が聞こえました。
 どれくらいの時間がたったことでしょう。
ダイくんが、目の前にはお医者さんがいます。
「もう大丈夫だよ。骨には異常がないみたいだからね」
 体中、スリキズだらけなのは、砂場の上の藤棚に落ちたからでした。
「運が良かったよ。コンクリートにでも頭をぶつけていたら、大変なことになっていたんだからね」
 ママもずっとダイくんを見つめています。
「ほんと。大丈夫でよかった」
 ママが思いっきりダイくんを、抱きしめてくれました。
「ママ!ママ!ごめんなさい!」
「ママこそ、いっつも寂しい思いをさせて、ゴメンね」
「いたいよ!ママ!もう大丈夫だから!」
ダイくんは、体中がいたいくせに、ちょっと嬉しそうな顔をしていました。
「いいな~、ダイくん。だって園長先生がママなんでしょ!」
 それから、ダイくんは、みんなにいいなあ、って言われたら、「いいでしょ!」って答えるようになりました。だって、みんなの園長先生でも、やっぱりママはダイくんのママだってわかったのですから。いつの間にか、ヘンテコな猫も、現れなくなったみたいです。

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