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おたねさんちの童話集 「ウスノロのカバ」

ウスノロのカバ
 
大きくなったら何になる。
サッカー選手にはなれないナ……。
だって早くは走れないもの。
アイドル歌手にもなれないナ……。
こんなに大きな口だもん。
いろいろいろいろ考えるけれど、やっぱり僕にはできないよ。
だってやっぱりウスノロのカバ!
みんなが僕をそう笑うから。
やっぱり僕にはなれないよ……。
食べるのムチャクチャ大好きだから、洋食屋さんになろうかな?
ダメだナ。ひとりで全部たべちゃうから。
体重あんまり思いから、運転手さんにもなれないし……。
将棋の棋士になるくらい、頭かよかったらいいのにナ。
大きくなったら何になる。
なんにも、なんにも浮かばない。
できないことが多すぎて、なんにも、なんにも浮かばない。
大きくなったら何になる?
いろいろいろいろ考えるけれど、できないことしか浮かばない。
どうせできないことならば、ぜったい出来ないものになろう。
たとえほんとにできなくたって、できないことしか浮かばないなら、せめて頭の中くらい、ぜったいできないものになろう。
大きくなったら何になる?
大きくなったら何になる?
頭の中なら、なんだって!笑われないからなれるはず!
大きくなったら何になる?
うーんと……。
えーっと……。
何になろう?
なりたいものが多すぎて、なかなかなかなか分からない。
大きくなったら何になる?
大きくなったら何になる?
そうだ!
そうだ!
あれになろう!
魔法使いのスーパーマン!
なんでもできるヒーローになる!
困った人を見かけたら、きっとたすけるヒーローになる!
世界で一番格好いい、みんな大好きヒーローになる!
銀行強盗をやっつけて、世界の平和を守るんだ!
交通事故も未然に防ぎ、魔法で病気も治してあげる!
困った人を見かけたら、きっとたすけるヒーローになる!
世界で一番格好いい、みんな大好きヒーローになる!
魔法だってこのとおり!
頭の中ならなんでもできる。
スイカの馬車も、おと姫様も、魔法の杖でなんでもだせる。
魔法の呪文はしらないけれど、ゴニョゴニョゴニョでなんでも出せる。
テクマクマヤコンチンカラホイ!
ビビデバビデニチチンプイプイ!
ヤッパリコレダヤンバラヤンヤンヤン!
アイドル歌手だってダンサーだって、魔法だったらなんでもなれる。
船長さんにもパイロットにも、魔法だったらなんでもなれる。
宇宙船にも乗れちゃうゾ!
けれどもやっぱりウスノロのカバ!
夢から覚めたらウスノロのカバ!
そんなことは分かっているヨ。
目を見開いて前を向いたら、やっぱり僕はヒーローじゃない。
なんにもなれないウスノロのカバ。
あんまりあんまり悲しくなって、僕はノロノロ歩き出す。
ユラユラノロノロ歩いていくと、エンエンエンエン泣いていた。
いったい何かと覗いてみたら、ロバの子供が泣いていた。
僕もまだまだ子供だけれど、僕より小さな男の子。
「どうしてそんなに泣いているの」
声をかけたら指さした。
ロバの子供が指さした。
きっついきっつい坂の下、そのまた向こうの湖に大きな荷物が浮かんでた。
ゴロゴロ三つも浮かんでいた。
ロバの子供が運んでいて休憩しようと思ったら、ゴロリゴロリと転がって大きな荷物が落ちちゃった。
ゴロゴロ三つ落ちちゃった。
あんまりエンエン泣くもんだから、僕は荷物を拾ってあげた。
ごろりごろりと転がって、そのままボチャンと湖へ。
見かけによらず泳ぎは得意!
あっという間に荷物を集め、ロバの子供に渡してやった。
ロバの子供は泣き止んで、スゴイスゴイと喜んだ。
イッパイイッパイ喜んだから、なんだか僕まで嬉しくなった。
だってロバの子供が叫ぶんだ!
ヤッター!僕のヒーローだって!
あんまりあんまり嬉しくて、ついついついつい言っちゃった。
ロバの子供に言っちゃった!
困ったことがあったなら、イツデモ僕に相談してネ!
まさかホントに困ったことが、ロバの子供にあるなんて、ぜんぜんぜんぜん知らなかったから、ついついついつい言っちゃった!
ロバの子供は真剣な顔。
「僕の弟を助けて下さい!」
ロバの子供の弟は、毎日毎日病院の中。
大きな病気で外へはいけず、毎日毎日病院の中。
僕は、ホントはヒーローじゃない。
だから、何にもできないよ。
だけど、口から出たことば。
ロバの弟に言っちゃった。
大きくなったら何になる。
僕は、なんにも、なんにも浮かばなかった。
ホントにホントのそう言っちゃった。
大きくなったら何になる?
できないことが多すぎて、なんにも、なんにも浮かばなかった。
大きくなったら何になる?
いろいろいろいろ考えるけれど、できないことしか浮かばなかった。
だから僕は決めたんだ。
どうせできないことならば、ぜったい出来ないものになろう。
たとえほんとにできなくたって、頭の中ならできるはず。
頭の中でなれたなら、少しはそれに近づける!
ヤーイ!ヤーイ!ウスノロのカバ!
みんなが僕をそう笑うけど、少しくらいは近づける。
ロバの子供の弟は、静かに静かにうなずいた。
だったら僕はヒーローを一生懸命作ってみせる!
頭の中でヒーローになって。
そしてホントの漫画家になる!
漫画家だったら、ここでもなれる。
だってベッドの上だって、時間だけはたくさんあるもの!
毎日毎日夢の中、イッパイイッパイヒーローになって、それを漫画で描いてみせる。
僕はゆっくりお家へかえる。
夕焼け小焼けで日が暮れて、僕の背中もまっかっか。
大きくなったら何になる。
あんなに小さいロバだって、精一杯に頑張っている。
僕もなんとか頑張ろう!
大きくなったら何になる。
大きくなったら何になる。
僕はやっぱりウスノロのカバ。
まだまだなんにも答えはでない。
けれども、それでいいじゃないか。
僕もやっぱり頑張ろう!
精一杯に頑張ろう!
頭の中くらいはヒーローになって、精一杯に頑張ろう!
きっと答えは見つかるサ!
きっと答えに近づくサ!
大きくなったら何になる。
大きくなったら何になる。
分からないけどガンバレば、きっと答えに近づくサ!

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