適当に文章を書くこと
何でもいいから適当に文章を書くところから始めないといけないなと思った。
「ライティングの哲学」を読んで
最近、哲学者の千葉雅也の本をよく読んでいる。初めて読んだのは『現代思想入門』で、それがえらく読みやすく、わかりやすい本だったことに感銘を受けて、他の本も読み進めている。今のところ『動きすぎてはいけない』『デッドライン』『勉強の哲学』を読み終わり、いまは『ライティングの哲学』を読んでいる。
「ライティングの哲学」は、書くことを仕事の一部としながらも、それが苦痛である人々(千葉+3人)が集まって「どうやったらもっとスムーズに書けるようになるのか」と頭を悩ませ合っている本なのだが、そこで一つのヒントして語られていることは「すごいものが書けるという自身の万能感に対する断念」である。要するに「自分の考えていること、思っていることを余すところなく、かつすごい表現でまとめたい」「無駄のない表現で書きたい」という無限の欲望をいかに振り払うことができるか、ということである。
それぞれよく読む人であるということに起因するのかわからないが、みんなどうやら文章に対する強いこだわりがあるようである。それはもちろん素晴らしい文章を書きたいという感情の表れであり、その欲望自体は決して否定されるべきではないのだが、しかし「より良いもの」を求めるマインドが強すぎるがゆえに、「そもそも一文字目が書き出せない」「書き進められない」「いつまでも直してしまう」という無限ループにハマり、そして結果として何も発表できなくなってしまうということにつながる。要するに、素晴らしいものを書きたいと思うからこそ何も書けない、という矛盾のような逆説のような事態が起こるのだ。
千葉も、主著であるドゥルーズ論『動きすぎてはいけない』においては、無駄を削ぎ落とした、こだわり抜いた文章を突き詰めて完成させたということだが(実際この本の濃度はすごい)、しかしこのような強迫的ですらある仕事を今後も続けていくのは無理だとも悟ったらしい。
だからこそ、「断念」という言葉が一つのキーワードになるのだが、しかし千葉がこの本に寄稿している文章における思い切りはなかなかすごい。彼はWorkflowyという箇条書きによるアウトライナーアプリでのメモを元に執筆を進めるのだが、そこではもはや文体的な一致すら諦めている。最初は「である調」なのに途中から「ですます調」になり、しかし気付いたらまた「である調」に戻り、最終的には「ですます調」になっている。
みんなが頭を抱えがちな書き出しについては、「この原稿だが、とりあえず書き始めることにする。」とある。普通はこんな文章はありえない。
しかし、そのように「書かずに書く」(しっかり書くという気構えを捨てながら書く)ことで結果として自身の考えを言葉にし、発表できるのであれば、それはやはり何も書かないよりも良い、ということになるだろう。千葉は自身の文章の書き出しについては、座談会の中で「あとでそれをカットしてもいいし、それを残してもいい。」と気楽に考えているようだ。確かにそうだ。
決して完璧なまとめをしなくても、それでもいいからとにかく書くことが大事なのだ。
ぼくの話
これは大杉雅栄という人間のnoteだが、はっきり言って全然頻繁に投稿していない。なめてるのか、というぐらい投稿していない。理由は色々あるけれど、やはり心のどこかで「ちゃんとしたものを書かないといけない」という余計な感情が発生しており、それによって書く気持ちが遠ざかってしまう。しかし、僕は文章にこだわりがある人間ではあるものの、別に作家でもなんでもないし、そのような意識を持て余していたら永久に文章が書けないまま終わってしまう。
僕は風呂に入っている時や寝る前など、色々と頭の中に考えが去来して、ほとんど自動筆記のように文章を生成していくことがよくある。そこでけっこう良いことや、なるほどと思うような論理展開を思いついたりするのだが、それらはほとんどの場合、一時間後には全て忘れ去られている。夢みたいなものだ。
しかし、これでは誰も(自分すらも)僕の考えていることを知ることができず、その中に含まれているかもしれない有用なことも記録に残らない。これをなんとかしたいと思った。
ポイントはとにかく「まともな文章を書かない」ということに尽きる。正確には「まともな文章を書こうとしない」ということだ。とにかくハードルを下げて、なんでもいいから言葉にしていくことだろう。
こういうことを『ライティングの哲学』を読みながら刺激され、「本なんか読んでる場合じゃねえ。なんでもいいから適当な文章を書くのだ」と、読了してもいないのに、とりあえずパソコンのキーボードを叩いてみた次第である。
そういう勢いと、己に「適当さを課す」ような態度によってしか始めらないのだ。完璧でなくても、やらないよりやるほうがずっと良いのだ。
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