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イベントにおける Lift & Shift

DX(デジタル トランスフォーメーション)の文脈や、クラウド利用の方法として Lift & Shift(リフト アンド シフト)という言葉が使われることがあります。現在利用中のシステム(おおよそ、オンプレミスのシステム・・・というカテゴリのもの)を、仮想化技術を使ってそのままクラウドに移行することを「リフト」と呼び、その後でクラウド本来の強みを活かすアーキテクチャを使ったクラウド ネイティブなアプリケーションにすることを「シフト」と呼んでいます。

DX=クラウドではない(と思う)のですが、たしかにインフラだけでもオンプレミスのシステムからクラウドに変えることによって享受できるメリットは大きいのでリフトにも価値はあります。ただ、その後、クラウド ネイティブにシフトする、というのはなかなか簡単な話ではなく、それゆえ、リフト無しにいきなりクラウドネイティブのシステムやアプリケーションに書き換えることができないケースも多々あります。

先日、コミュニティ放送部でバーチャル/オンライン イベントとは?という会話の中で、オフライン イベントを開催してきたスタッフのイベントのオンライン化における苦悩と、上述のリフト アンド シフトが重なる部分が多いなぁ、と感じたので言語化してみようと思いました。

オフラインイベントをオンラインにリフトしたときの課題

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オフラインでやっていたことをそのままオンラインで行ってみるという、リフト的アプローチですが、そもそものイベントの建て付けの基礎部分(アーキテクチャー)が違うので、オンライン イベントでは過去経験してきたメリットが全く見えない、という意見でほぼ全員が一致しました。

1) ブースや展示方法で良い実装方法がない

オンライン イベント、バーチャル イベントにおいて、主催者側からスポンサーに提供するブースエリアや展示エリアは現状「Webページ」になってしまいます。通常のWebページ/Webサイトと変わらない、商品やサービスの写真や説明文を配置したスペースの提供だけでは、商品やサービスを知らない・興味の無い参加者がそのリンクやフォトをクリックするとは到底思えず、オンライン イベント参加によりスポンサーが潜在的顧客プロファイル(リード)の獲得ができると言えないのがつらい、という意見でした。

2) オフラインブースでの「声がけ」ができない

リードの獲得ができない具体的な例としては、オフラインの展示ブースでは、目の前を通り過ぎようとしたお客様に声をかけて、感触を見て、興味がありそうなポイントを探り出し、適切なサービスや情報を提供する、といった活動ができましたが、参加者が自分の興味の赴くままにコンテンツを拾うオンデマンド的なオンライン・バーチャルイベント会場では、会話のキャッチボールによるニーズの聞き出しと、マッチする商品・サービスの紹介ができていない、という認識です。

3) 人だかりによる活況さを表現できない、わからない

たとえ、それが「さくら」だったとしてもオフライン イベントにおいては、ブースに「人だかり」ができていると、そこで足をとめてくれる参加者も多いのは事実でした。バーチャル・オンラインの良さは、より多くの参加者の獲得であることは間違いないですが、その多くの参加者が「そこで見ている」という状況・事実を、その場にいる同じ参加者やスポンサーの担当者が感じることが可能な仕組みは今のところポピュラー/スタンダードなものがない、という認識です。

そもそも、オフラインイベントのアーキテクチャ上で構築されてきた「ブース」や「展示」というものなので、これをオンライン ネイティブなものに再構築する必要があるよね、と全員の意見が一致していました。

4) 参加者同士のコミュニケーションや、参加した!という経験共有が薄い

イベントスポンサーだけではなく、イベントの一般参加者にとっても、その参加経験がワクワクするか?という命題があります。これは、オンライン配信における「ライブ」の意味や価値とは?のディスカッションにも通じるものです。たとえそれがWebページに埋め込まれたライブ動画であっても、自宅から一人でみて、それを「参加」とするオンラインイベントで、制限された期間・時間内に見なくてはならないメリットは何か?を真剣に考えたほうが良さそうです。本来のオンラインのメリットは、好きな時間に、好きな場所でみることができる「オンデマンド」による時間や距離の制約からの解放であったはずです。それを捨ててまで制約を設ける意義は本当に参加者・お客様のためのものなのか、という点です。個人的にはこの議論がまったく抜け落ちているような危機感を感じます。

ブレインストーミングの結果

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もちろん、解答はまだないのですが、こんな意見が出ていました。

1) テレビショッピングのような引き込むコンテンツを主催者とスポンサーと一緒に作る

ここに製品やサービス利用者を含めた、三身一体型の事例や商品紹介のコンテンツやビデオを作成する。テキストによるコンテンツは「読む」という能動的な動作が必要です。動画は「見る」という受動的な動作であり、この2つの違いは大きいと考えてます。自社だけではなく、イベント主催者と共通のお客様とで、そのようなコンテンツを作成できることが、スポンサーになるメリットであり、それを理解した上で、制作上のネタやタレントを提供できなければスポンサーになれない時代になるかも、という意見でした。

2) 魅力的なコンテンツを作成し続けるにはコンテンツ内製化の方向に進むのではないか?

企業によるオウンドメディアの進化系がこの方向になるかもしれませんが、イメージとしてはジャパネット タカタさんのように、スタジオを自前で持ち、しゃべりのタレント社員がいて、あらゆる商品やサービスの訴求ポイントをいろいろな形で表現でき、それをオンデマンドの動画またはライブで提供できる、そんなコンテンツ制作が可能な企業だけがオンライン イベントを活用できるんじゃないか、という意見もありました。

3) ビデオを強制的に見せる方法を考え出す

一般の民放TVであれば番組と番組の間にあるCMであり、映画であれば本編が始まる前に流れる(結構長い)予告編など、セッションとセッションの合間や、セッションが始まる前などに「スポンサー広告動画」を流す、それも上記の1)や2)であげたような、魅力的で、そのイベントならではの、今まで興味のなかった人を引き込むような「広告コンテンツ」です。動画プレーヤー内に表示されるボタンをクリックすると、次につながるなんらかのアクションが可能なものになるが期待されます。プロファイルを取得しゲーティングしているのであれば、クリックすることでスポンサーに顧客プロファイルが提供されるなども必要でしょう。

まだまだブレインストーミングレベルでしかなく、さらにディスカッションが必要です。継続して、コミュニティ放送部などで、検証や実証をしていきたいですね。

2848文字 合計すると3時間くらい

Free-Photos による Pixabay からの画像をお借りしました
Gerd Altmann による Pixabay からの画像をお借りしました
mohamed Hassan による Pixabay からの画像をお借りしました

[追記]
オンラインのイベントとしてVRを使った仮想イベント実装の話がでてきます。現在だとクラスターや、バーチャルマーケット、10年以上前だとセカンドライフなどです。そのとき、そのときのイノベーターやアーリーアダプターの興味を引き、それらの人達が参加し、そしてそこでイベントを開催しています。

VRや3DCG、デジタルコンテンツを扱う技術コミュニティの場としては最適と思いますが、それ以外のトピックを扱う一般的なコミュニティにはまだキャズムを超えることはない、と感じています。というのも仮想世界で「アバターを操作する」というのは、やはり一般の人にとっては難しい。操作方法を覚えるのに時間がかかり、覚えても、イベントに参加したらオフラインイベントをリフトしただけ、という内容だと、目的にたどりつくまでのコストが高い、その結果得られたものが特別なものでなく期待に沿わないことが多いのが課題だと思います。そのスポンサーの製品、サービス紹介動画を見るのであれば、3DCGによる仮想空間である必然はなく、上述のリフト&シフトのリフトです。シフトの結果のベストプラクティスはまだ試行錯誤で、それを実現するためのインフラやサービスは各社が開発中だと思います。

CGおよびVRの技術はこれからも発展、進化していき、ネットワークとコンピュータの世界ではなくてはならないものになると思いますが、これがキャズムを超えて一般的になるまでには、一般の人にも馴染みやすい適切なデバイスの登場を待たなければならないなど、ソフトウェアやサービスだけではない解決しなければならない課題がまだまだあると感じています。


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