老眼と猫

45歳を過ぎたあたりから、目のピントが合いづらくなってきた。幼少の頃から視力だけはよかったので(これが、あの「老眼」か!)と、ぼやけた世界を少し新鮮に感じていた。

寝る前は、眠くなるまでiPhoneでSNSを眺めたり、ゲームをしたりするのが日課になっている。画面の文字は、腕を伸ばして顔から遠ざけないと読めない。そんなことをしているから、目が悪くな ったというのもあるのだろう。わかってはいる。

寝支度をして、布団に潜り込み、うつ伏せになってiPhoneを眺める。しばらくすると、必ず(本当に必ず)猫のなつめ(13歳・オス)が枕元にやってくる。うろうろした後、伸ばした左腕の先にあるiPhoneと、僕の顔の間にデンと腰を下ろす。当然、画面はまるで見えない。

「見えないよ、どけってば」と、声をかけても知らん顔で丸くなっている。

なつめは、僕が眺めているiPhoneにやきもちを焼いているのだ。iPhoneをあきらめて、なつめの背中を撫でる。なつめは、満足そうに喉を鳴らす。その音を聞きながら、僕も眠りにつく。

ここまでを含めた一連が、就寝前の儀式のようになっている。

なんの話だっけ?

ああ、老いも悪いことばかりじゃない、という話だ。

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仁尾智(におさとる)
そんなそんな。