ファッションにも心に良い残響を

タカーシーさんが昨日書いておられた言葉の残響のお話、とても思い当たるところがあります。事象が終わりを遂げても感情がその場に留まり続ける。思いが残っている状態ですね。

いい映画を見た後や、心揺さぶられる小説を読み終えた後などは、しばらく放心状態でその余韻に浸っていたい。そういう時にきっとその物語の残響を味わっているのでしょうね。エモーショナルな時間は心を豊かにしてくれます。


さて、私は昨日一日、仕事でメーカーさん巡りをしていました。
2023年の秋冬の展示会です。
アパレルメーカーの展示会は秋冬物は大体3月4月の第2週目、春夏物は9月10月の第2週目にあります。日程を合わせることで、東京で行われる展示会に地方からのバイヤーが一度に回れるよう配慮されています。

半年先のシーズンのものを発注しに行くのですから先見の明が必要ですが、それも含めてこの仕事の楽しい部分でもあり、私は昔から展示会が大好きです。
昨日はこの秋冬の商品を発注してきました。

この3年、閉ざされた生活をしてきた私たちのニーズは明らかにそれまでとは変わっています。以前にはなかった生活様式の中で、“必要なもの” や “重要視すること” も変化したと実感します。それは商品にも如実に表れ、例えば品質やデザインにも分かりやすい変化を見ることができます。

まず、“家で洗えるもの“ というのが必須条件になってきた感があります。出かけることの少なかったこの3年、数回しか着ないものをいちいちクリーニングに出したくないという心情はとてもよく分かります。そして仕事もリモートが多かったので、トップスに至っては “顔色がよく見えるもの” “映えるもの” “明るい色物” などの需要が多くありました。
それに伴ってボトムスの売り上げが落ちた感があります。「出かけないし映らない」という人たちは、極端な話、下は部屋着でいい、という感覚です。その分、トップスの数を増やしたい。気持ちはとてもよく分かります。うちの娘もそうでした。

そうやってこの3年間、洋服に対する感覚がいつもと違う選び方や着方になっていた人は結構いたのではないかと思います。きっと、 “おしゃれ” とはかけ離れた 「必要最低限のものを揃える」という感覚だったのではないでしょうか。これでは買い物も楽しくないですよね。必要に迫られて買う洋服は、まるで冠婚葬祭の式服を選ぶのと同じで、「今度のデートはこれを着てお出かけしよう」というようなワクワクと心躍るものではありません。
「必要だから買う」ことに慣れてきたこの3年という日々を経て、ようやくここへきて楽しい服選びができる状態に戻ってきました。

しかし、いざそうなると何から手をつけたらいいのかが分からない。何が欲しくて、どんなファッションを取り入れたらいいのか分からないという声を、現場ではよく聞きます。

まずはこのシーズンの初めに何を買えばいいのか。
それを間違えるとその後の買い物がチグハグになったり、買ったものの一度も袖を通さないで終わるという残念なことにもなりかねません。
これから外に出ていく機会が多くなると予想する中、まさにそういった悩みを抱えている人が多いな、という印象を受けます。

必要なものはその人によって違いますし、ファッションをどんなふうに捉えているかによっても変わってきますので一概には言えませんが、私的に一つ言えることは、もう一度自分の “好き” を思い出し、“心躍るもの” を見つけてみては?ということです。

家で洗濯が可能かどうかは、この物価高の中、家計を預かる主婦の皆さんには必須条件かもしれませんが、それを中心に考えることは何かを犠牲にする可能性が高いとも言えます。それは例えば映画や小説の残響を楽しむような、心のゆとりの部分を排除している選択になってはいないかな、などと要らぬ心配をしてしまうのです。

このレースに心惹かれる。このハンドステッチにエモを感じる。デリケートな素材だけれど、このしなやかさが私の今の心を爆上げしてくれる。など、家で洗濯できないかもしれないけれど、そこに他にはない “心惹かれる” 条件を感じたとしたら、ぜひ取り入れてみてはいかがかなと思うのです。

“残響を楽しむ“ は、ようやくいろんなことが開き始めた今だからこそ、必要なことであり、もう一度自分の心を大切にするきっかけになるような気がしています。

この3年間で私たちが奪われたものは数え切れないのです。気がついていないこともまだまだあると思います。全てが元通りにならないと分かっているからこそ、取り戻したいことの一つ一つに丁寧に向き合っていきたいなと思います。
そのお手伝いが少しでもできたら、この仕事に携わってきた甲斐があるというものです。


お洒落がしたい、という人はとてもエネルギーに溢れています。
気持ちが前を向いているからです。
そういった人と向き合うことで私自身もエネルギーを頂きますし、それをきっかけに、封印していたことを取り戻したり、新しく何かを始めることに目を向ける機会を持つことができています。

ようやく色んなことに対して “余裕” が出てきたということでしょうね。
それは全ての人にとって喜ばしいことだと思います。

ちなみに、洋服についている洗濯表示にバツがついていても、意外に家で洗えるものは多くあるんですよ。カシミアのニットなどはその代表です。正しい方法で洗えば、全く問題ありません。

春の陽気を感じる季節になりましたね。
この春は “本当に欲しいもの“ 探しをしてみてはいかがでしょうか。

それではまた。


最後に、この曲を聴くと何故かお洒落をして出かけたくなるという、私のお気に入りのナンバーを置いておきますね。ワクワクと心躍る軽やかなピアノの音色に、春色の心地よい残響を感じます。


*アーカイブは下のマガジンから読んでいただけます。よろしければどうぞ。

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