しあわせの青い鳥
自分の目に見えないことは信じない。
自分が体験したこと以外は信じない。
自分の存在など何の価値もない。
誰も私のことを分かってくれる人はいない。
なぜ私はこの世に生まれてきたのだろう。
なぜ生きなければならないのだろう。
この苦しみの先に何が待ち受けているのだろう。
もう二度と笑うことなどないのかもしれない。
生きる意味がわからない。
苦しむ理由がわからない。
なぜ私はここにいるのだろう…。
私は自分の感情に蓋をした。
重い足取りで改札口を出ると大勢の目的ある人々がせわしなく急ぎ足で行き来する。
羨ましさと嫉妬で心がちりちりする…
そんなに急いでいく先にはそこに何か目的があるからなのだろう。
仕事?人に会うため?買い物?学校?映画?デート?
人々が自分とは違う次元で生きているように見える。
みんなキラキラして生きるエネルギーに溢れている。
私は今、人からどんな風に見えているのだろう。ふと、そんなことを考えた。
生気のない、どんよりと沈んだ表情で行くあてもなくさ迷う亡霊のように見えるのだろうか。
乗り換え駅までの長い連絡通路。アーケードのガラスに写る自分を観察する。そこまで落ちているようには見えない。きっと人からはわからないはずだ。この女の目が死んだ魚のようだとは。
誰も私のことなど気に止めやしない。誰も見てなんかいない。だから大丈夫。平気なふりをしていればなんとかなる。今日一日をやり過ごしさえすればそれでいいのだ。
そうやって砂を噛むように無意味な毎日を繰り返していた。
やりたくもない時間給の仕事を淡々とこなす。何度も何度も時計を見ながら。
あと5時間…。
あと3時間….
あと1時間…。
時計の針が5:00を指すとようやく解放される。それでも心は晴れるわけではない。
日常に戻りたくない。そこに安らぎなどないからだ。
誰も知った人のいない場所へ行きたい。なんのしがらみもない場所へ。
全てを投げ出したい。
でも、そうすれば今以上に生きる意味は無くなってしまうだろう。
それが分かっているからなんとかここに踏みとどまっている。
帰りの電車の窓から遠い空を望む。
あの雲の向こうはどんな世界があるのだろう。
空を飛びたい。自由な空を。
どこまでも続く青い空の遥か彼方に希望の欠片を見つけたくて目を凝らしていると、色鮮やかな一羽の青い鳥が飛んでいるのが見えた。
あ…
美しい。そして自由だ。
広い空をどこへでも飛んでいける。
あの鳥になりたいな…
今すぐこのカラダを卒業して、私も仲間に入れてもらえないだろうか…
青い鳥はまるで私の視界から外れないように器用に速度を合わせて飛んでいる。
じっとその姿を目で追っているとまるでその青い鳥が運んでくるようにある言葉が聞こえてきた。
「在るだけで」
…なに?
「在るだけでいい」
…なんのこと?
そしてそのまま大空の向こうへ飛んでいってしまった。
在るだけでいい
その意味が分からず、ただ頭のなかで繰り返した。
その夜、夢を見た。
その夢の中で私は生まれて間もない赤ん坊の姿に戻っていた。
父と母に交互に抱かれ、とても幸せだった。
二人とも優しい笑顔で私を見つめていた。
何も心配のない世界だった。
生まれてきた私に、二人はただ愛しい笑顔と心で「ありがとう」と繰り返し言った。
父と母の嬉しそうな顔を見ているだけで私は温かかった。幸せだった。こんなにも心安らぐ場所があったのかと思い出した。そしてその腕のなかでただ抱かれながら安心して眠った。
夢の中で父と母に抱かれながら眠っている赤ん坊の自分を見つめる。
そしてまたあの声が聞こえた。
「在るだけでいい」
そう、なにも心配などいらない。そこに存在するだけでよかったあの頃。
そこにいるだけで、そのままでいい。
そう言ってくれる人が今の自分の回りにいるだろうか…
そしてまたあの青い鳥の声が聞こえた。
「我慢するのはやめなさい」
私は何を我慢しているというの?
「自分の心を見つめなさい」
自分の心?そんなものはどこかに置いてきてしまった。
「自分の心に素直になりなさい」
もう一度心の蓋を開けてみようか…
固く鍵を閉めたはずの自分の心の蓋を。
そこにあるのは何なのか、もう一度見つめ直す勇気が今の私にあるだろうか。
「在るだけでいい」
そこで私は目が覚めた。
青い鳥はとても美しかった。
信じてみようか…。
それから私は心のなかにいつも青い鳥の存在を感じるようになった。
そして迷ったときはその鳥の言葉に耳を澄ませることに努めた。その姿の在り方を何の疑いもなく見つめることに努めた。
そこには何にも縛られない、広い青空を自由に飛ぶ鳥そのものの姿しかなかった。
在るだけでいい
そうして私は今ここにいる。
その言葉にいざなわれるように。
晴れ渡る広くて自由な空を飛んでいる。
あなたはあなたの人生を生きていますか?
* ***** *
これは#めがね男子愛好会に入会してくださったフジミドリさんへのプレミア小説です。
フジミドリさんはたくさんの方から慕われ、フォローされているnoterさんです。
私の読解力と筆力ではその壮大なスピリチュアルの世界観を表現することはなかなか困難な試みでした。
その上で、私なりにフジミドリさんの文章を読んで感じたことをそのまま素直な気持ちでしたためてみました。私の過去に実際に感じた感情の記憶とフィクションのストーリーを織りまぜ、フジミドリさんのスピリットをリンクさせて出来上がった物語です。
拙い表現ですが、私の気持ちを受け取っていただけたら幸いです。
ビスコさん主催の #めがね男子愛好会 はこちらから