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目が悪いなんて知らなかった。
だってあなたはいつも私の心をお見通しだから。
初めて会った時から常に私の考えてることの先を読む。意地悪だなと思った。
「俺のこと好きなんだろ?」
なんで分かるの? でも悔しいから認めてやらない。
「何言ってるの? 意味分かんないよ。」
そう言うと何も言わずにふふん、と鼻で笑った。
なんだか悔しい…。
初めてあなたの部屋を訪れたとき、その瞬間に出くわした。
眼鏡…かけるんだ。
「目 悪かったっけ?」
私の言葉に少しの微笑みだけで返事をし、そのしなやかな指先でステンレスのスクエアな眼鏡をそっとつまみ上げた。
シルバーの光がシャープで冷たい印象。あなたによく似合うデザイン。
「六法を読むときはね。仕事モードに入れるんだよ。」
私の存在をまるで無いかのように自分の世界に没入する。
「仕事忙しそうね。悪いから帰るわ。」
悔しいのと情けないのとでその場から一刻も早く退散しようとコートを手に取った。
「あ、そう。悪いね。また連絡するよ。」
引き留めてくれるとばかり思っていたのに。作戦失敗か…。
今日のために新しく卸したばかりのエナメルのパンプスを口惜しげに履きながら、背中であなたの気配を探ろうとするけれど、全くその熱は伝わってこない。
これ以上は、無しかな…。
不意に涙が込み上げそうになったけど、負けず嫌いの私が押さえ込む。
そのとき…
右の肘をぐいと捕まれて驚きと共に全身の力が抜けてよろめいた。
体勢を崩した私をあなたの腕がいとも簡単に抱き寄せる。
「何でホントに帰るんだよ、ばか。」
だって…だって…
また意思とは逆に涙が込み上げる。
あとはもうなだれるようにあなたの領域に誘い込まれた。
気が付くとあなたの熱い息が掛かるほど目の前にステンレスのシルバーが光る。
そっと私が外してベッドサイドのテーブルに置いた。
「外すと何も見えないよ。返して。」
「いやよ。恥ずかしいから見ないで。」
六法を読むときだけ許してあげる。
私の目の前では身も心も裸のままでいて。
冷たいスクエアの枠の中には収まらないの。
私という女は。
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この記事は#めがね男子愛好会。に入会してくださった洋介さんのために書いたプレミアnoteです。受け取ってくださってありがとうございました。