ライターのしごと#5「記者のprivilege」
ここに掲載した写真は、米国ロードアイランドにあるマッコイスタジアムにあるコンコース壁の展示物だ。ボストン・レッドソックス傘下AAA級ポータケット・レッドソックスが今季まで使用している(使用するはずだった)球場だ。
元レッドソックスであり現横浜DeNAベイスターズのコーチである大家友和氏がポータケット時代に完全試合を達成したことは野球ファンならご存知の方が多いと思うが、そのときの地元紙が球場の壁にこのように展示されていた。レッドソックス傘下AAAのチームは来季からウォーチェスターに移転するため、このマッコイスタジアムが使用されるのは今季が最後。しかしマイナーの今季は新型コロナウイルス感染拡大のため中止されてしまったため、最後の1シーズンをファンに見てもらうこともできず、幕を閉じる。この壁の展示物も、移転してしまったらどうなるかわからない。もう展示されないかもしれない。
そんなわけで今、この写真を撮って、残しておいて良かったと思っている。しかもこれは、一般の入場客では恐らく入ることができない場所に展示されていたので、私がただの客だったらこれに気づくこともできなかった。記者だったからこれを見つけて、写真も撮ることができた。
他の人が入れないところに入れたり、他の人が見られないところを見られるのは記者のprivilegeだった。今もそうかもしれないが、ただこのコロナ禍で、今や取材はリモートでオンラインが主流となり、記者にしか見られない部分というのはかなり少なくなった。
そんな中で記者はどうしていけばいいのか、何を書けばいいのかと、最近よく思索を巡らせている。自分にしか書けないものは何なのか。今は過去に見てきたものという財産で食いつないでいるような状況だが、これが枯渇したときにどうすべきか。
記者にもいろいろなスタイルの人がいる。自分はこれまで、見たものを書きたいタイプだったが、これからの時代は頭を切り替える必要があるのかもしれない。自分にできるかどうかはわからないが……。
因みにprivilegeというのは、英日辞書には「特権、特典、恩恵」などと出ているが、私の感覚とはちょっとニュアンスが違う。オックスフォードの英英辞書には「available only to a particular person or group」と出ているので、このニュアンスがしっくりくる。
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