ライフ・イン・ザ・シアター2022 観劇レポート&感想 -3-
長〜い長いオタクの観劇レポ第三弾です。
*ライフ・イン・ザ・シアター2022
http://lifeinthetheatre.jp/
出演:勝村政信さん、高杉真宙さん 演出:千葉哲也さん
戯曲は悲劇喜劇 2022/3 No.815より
デヴィッド・マメットさん 作 小田島恒志さん 翻訳によるものを参考にしています。セリフに関しては同誌からの引用また、うろ覚えの記憶から記載しています。
11場で大いに笑わせた車椅子の流れから…
一転して 第12場
舞台裏に苛立ちを引きずったまま戻ってきたロバートはまた、衣装を床に叩きつけ「体育館みたいな匂いじゃないかっ!」(金沢のお客さん、ここで結構笑う。匂いに敏感?)
ジョンは自分の脱いだ衣装と共に、「こういうもんは、もっとまめに洗ってほしいもんだ」というロバートの脱ぎ捨てた衣装も拾い抱えて洗濯へ?なんとも言えないような表情のままカーテンを抜けて、ロバートの「疲れてるのか?」の問いに、「少しだけ」と言い訳のように応え、曇った表情のまま出て行ってしまう。
第13場 台本読み
淡いブルーのタイダイ柄パーカにネイビーのスウェット姿のジョン。カジュアルな衣装に少し、いくつかの作品を終えたかのような時間の経過を感じる。
タバコを吹かしながら台本のセリフを読み、読みながらキャラクターたちの心情を読み解いたり書き手に対して意見したりしている相変わらずなペースのロバート。裏で音を立ててしまったスタッフに怒ったりする様子に、またしてもなんとも言えない表情のジョン。
わかることもわからないことも、ハッキリと「イエス」「ノー」という素直な彼だけに、時折ため息をつくその表情の内にあるものが気に掛かる場面。
そんなジョンの様子には気づかない(フリ?)のまま、ロバートは相変わらずジョンのことが可愛いのだろうし、後輩を育てる、自分が伝えられるものは与えたい気持ちを持っているのが言葉の端々から伝わってくる。
「ほら、な?」と、”俳優同士だからこそ”分かち合えるものを共感したいみたいに見えるけれど、ますますすれ違いの”影”がスポットライトとともにジョンに落ちる。
「そろそろ雨になりそうだ…」
ここまでも1場からずっと、ジョンの意見を信頼し、耳を傾け、褒めて伸ばし、持論を以って”より良い俳優の将来を”と言葉をかけ続けるロバートのペースも、先輩風ばかり吹かしていられない風になっていくように見える。
第14場 楽屋にて食事
楽屋用のローブ?ガウンを着てリラックスモードの2人。オーディションを受けたというジョンに、「どうだった?」とたずねるものの、多くを語る感じには返ってこない。
「いい感触でしたよ。自分でもよくできたなって」「気に入ってもらえたし」
さらっと応える中にも外の人たちとの人間関係の広がりを感じるジョン。
サラダのようなものをスプーンで食べているジョンに延々と話しかけるので、「その鴨肉どうですか?」「パン。いいですか?」と話を逸らされるも、話が止まらないロバート。めんどくさそうな表情ながらも返事をしつつ、早めに食事を切り上げるジョンに、適当な相槌でその場を立ち去られてしまう。
ここでもうるさがられながら「自分の意志と行動はコントロールできる」と説いている。きっとこんな感じでこれまでも、幾度も、言葉を変えながら何度も同じ様なことをジョンに語ってきているんだろうな。
「いい役者には、いい仕事をだ。」
ジョンのことを「いい役者だ」と認めているロバートの心底の気持ちも言葉としては語られないけれど、ジョンから会話の返答が気持ちよく返ってこないその後ろ姿を見送りながら、自らのセリフ練習ではスムーズに出てこないところに、いろんな感情の渦巻きを感じる。
劣等感?焦り?不安?先輩としてのプライドや"役者"としての誇り。ロバートの「舞台の人生」が生々しく感じられる。
第15場 衣装部屋
ロバートの使う小道具の旗とコートを持ってカーテンをくぐり抜けてくるジョン。時々コートを踏んづけてしまったり、カーテンと旗がひっかかったりしつつ、きちんとバサバサ払ってロバートにコートを着せてあげる。反対に自分はジャケットを剥がれる。
言ってることは聞いているけれど、まだ怪訝な表情のままのジョン。黒のジャケットに膝の裂けた黒デニムの衣装。
「ジーパンとTシャツでも命をふき込むことはできる。だとさ」「わかりきったことじゃないか、役者が2人いて、セリフがあって、観客がいる。それだけのことだ」
ぼやきつつジョンに「なぁ?」とまた同意を求める。
「くそったれめ」とロバートは言うけれど、ふき込まれた命、そこからたくさんのものを与えてもらっている観客もまた、たくさんいるのは事実だな、とも感じながら。
第16場 バリケードの場面
舞台袖からロバートを見遣るジョン…。また、影が深くなる。"澱"が積もって行く。
劇中劇観客の笑い声が響くステージで旗を振るロバートの姿とジョンのコントラスト。
スポットの中にいるジョンの表情に、こちら側も言葉にならない気持ちが積もって行く。
舞台の上でロバートの長セリフの場面「記憶にある限り、人類は常に捕らわれの身であったと…。捕われの身であった…。パンを!パンを!パンを!民衆が叫ぶ…」
「…彼らの首は槍の先に掲げられて人民政府の庁舎を囲むことになるだろう。今こそ顔をあげて…!」大きな三色旗を振りあげ、勢いよく頭を上げたロバートのカツラが後ろ側に吹き飛ぶ。
シリアスな場面での失敗はどれほど役者にとって恐ろしいだろう…と、その場に立つことのないこちら側の人間の想像だにしない状況。素早く後ろを振り返りカツラを被り直してセリフを続けるロバート。「パンを。パンを。パンを…」
(そして、毎度上手にカツラが飛ぶものだと感心しつつ、浅く作られているのだろうか?と、衣装の仕組みにも興味が尽きないと感じつつ)
SEからは非情とも思える観客の笑い声と、悲哀の混じった声が聞こえる。実際にその場を目撃したわたしたちであれば、どうリアクションできるだろう?
笑ってあげるほうが役者は気が楽になるのか?それとも…?
ジョンはうつむき、袖の奥へ消えて行った。
第17場 救命ボートのメイク部屋
13場で以前読み合わせていた台本の舞台の日。
「コールドクリーム…ドーラン」「ドーラン!なんだこれは?クリームをベースに…色がついていて…」メイクルームで相変わらずロバートは独りごちている。
汚しの入った衣装のゆったりパンツにサスペンダー、ビッグサイズのシャツに着替え、鏡を見ながら眉間にしわを寄せてその髪型をボサボサふわふわにセットしているところ、ずっと喋り続けているロバートにいよいよイライラを募らせたジョンが爆発!「ちょっと黙っててもらえませんか!?」1場でキラキラしていたあの目はどこにもない。
「迷惑か?」の問いに、素直に「はい」と応えるジョン。
「このマナー違反を正当化する程に迷惑か!?」
「いいか、ジョン。俺くらい長くこの世界にいるとな…」またいつものように長い話が始まった…という感じの調子のところへ「後にしてください」とジョンが遮る。
「君にとってためになることだと思うんだが…」とロバートが続ける。
渋々の表情で「じゃあ、うかがいましょうか」応えるジョンに「君の態度はとてもほめられたものじゃない」そこから、劇場という閉じた社会での人間関係において、自分とジョン2人の個人的関係の問題だと説明し始め、言葉ではなく有機的に伝わるものだ…と説明しながら時系列が逆になって言い間違えてしまったりするロバート。
「口を閉じたままで多くを学ぶことができる。」の言葉に対し、瞬時に「でしょうね。」と応えるジョンの呆れた表情から、いつもハッキリとした言葉では伝えてこないロバートへの積年の思いさえうかがえた。きっとまだ、本番で失敗することの少ないジョンにとって、本番前の大事な時間にこんなやり取りをするのは堪え難かったんだろうとも。
ロバートの言う、「マナー」や「スタイル」「態度を抜きにした”舞台の人生”とは何か?」。
これまでもきっとずっと、ロバートはジョンに語り続けてきた話だったんだろうと思う。
「何なんですか?」のジョンの問いに「何でもない」と応えるロバート。
その答えさえジョンにとっては、苛立ちの種になったに違いない。
深呼吸してアンガーコントロール。イラッとしながらも先輩にキチンと頭をさげ、渋々でもちゃんとロバートの言葉に耳を傾ける。
「黙っててくれなんて言ってすみませんでした。」
「いや、そう簡単にはすまされんぞ。」
出番の前に感情をグッと押し堪え、頭を下げたジョン。ひと呼吸置いて、葛藤して、ちゃんと「マナー」を「態度で」示そうとしたその姿とは相反し、態度を変えられなかったロバート。ジョンの感情が昂り、良くも悪くもジョンの「舞台の人生」に反映されていく。
第18場 救命ボートの場面
役も相まってうな垂れているジョン。シーソーのボートはほぼロバートが動かしている。
密かに上手端の波の布を動かす黒衣さんの横に、姿の見切れている第3の黒衣登場!(2人目は下手側で波の反対側を持って布を揺らしている)お魚装置を紐でひっぱり、お魚が水面から跳ねる様子をギッコンバッタンとやっている。(下記図)
手前に戻ってきたお魚の向きを変えるのは第1の黒衣さん。(オープニングに出てくる人)向こうに行ったお魚は口の先に付いている紐を引っ張るとクルンとひっくり返るように出来ている。(かわいい!し、面白い!でも!ジョンが昂っているこんな場面で、黒衣さんもロバートも、遊ばないでっ!)というくらい、ある意味冷静に?ジョンのテンションを見て、芝居を抑えろ!と舟の下で手でジェスチャーしたり、調子が狂うのでボートを必要以上にギッコンバッタンと漕ぐロバート。(勝村ロバートはジョンのテンションそっち退けで時々ニヤニヤと漕いでいるようにさえ見えるw やりすぎて思わずこちらも、ジョンの感情がいっぱいになっているシーンなのに吹き出しちゃうことも)
溢れた感情を抑えられずセット側(リアル観客側)へ転がり落ちてしまうジョン。舟のセットの裏で立ち上がってしまう。その前に幕が下りていれば、泣き崩れた姿は役に入り込んでいたから…と、観る人にはバレなかったかもしれないけれど、観客の笑うSEの声が…。ロバートに向けられたものなのか、それとも…。
ロバートの劇中劇での「海で生きるってのは賭けなんだ」のセリフがジョンの中では現実の自分とロバートにオーバーラップしたのか、「あんたはそればっかりじゃないか!」という返しのセリフさえ、ジョンの気持ちからの言葉に聞こえてくるくらい。「見当違いもいいとこだ…」観ているこちら側も考えさせられる気持ちになった。
第19場 南部連合隊の衣装 舞台袖
階段をそろ〜っと降りてくるロバートに、一瞬、え?もうそんなに歳取ったの?と思ったくらい、段々ジワジワと、メイクが変わる訳でもなんでもないのに、時間の経過を感じさせられる。(実際は舞台裏で物音を立てないための忍足)
「天体暦、天体暦…」「時は流れる。」ロバートのよく言うことば。
宝石箱を持って現れるジョン。キリッとした兵隊の衣装が決まっていてカッコいいけれど、セリフが飛んでしまってロバートにたずねる。
「この次のセリフなんでしたっけ?」ロバートは台本を袖に持ち込まないでいるし、取りに行くというとそれは止める。(役者としてのプライドなんだろうか)
初めてのトチリ?なのか、狼狽えるジョン。
聞かれたロバートは「…女が時計を渡して…彼女が…、なんだっけ?」と逆に聞く始末。「あ〜〜!ダメだ。やっぱり台本を見たほうがいい。取ってきてやろうか?」という"今更”の申し出、そうこうしている間に”出”のキッカケまで外してしまい、ジョンはかなりの困惑具合。
ロバートの小道具のトレイの上に座り込み、ついにはそれを持って出て行ってしまう姿に、思わず私たちも心の中で(あ~~~!!!!!それ、違う違う違う!!!!ジョーーン!)と叫びそうになるくらい。階段に蹴つまづくわ帽子は落ちちゃうわ…。弁護士事務所の場面での無茶振りからあともしっかりと舞台をやってきただろうジョンがうかがえるし、間違えることがなかった分、ド忘れした自分自身をカバーする余裕は経験則としてはなかったのかも?と思わせるくらい。(遊び的なアドリブ効かせるのとは異なり、間違いをうまくカバーするアドリブは失敗の場数や役者同士のカバー力?信頼関係によるものか…失敗なくきたからこそ、動揺が大きかったのかもしれない?とジョンのこれまでの舞台経験を想像させる…)
静かになったカーテンの向こうの劇中劇舞台上(もしかしたらジョン待ち)へ恐る恐る出て行くジョン。自分の持っていた物が違うことに気付き、聞いたことのない声で大きな悲鳴をあげる。
第20場 舞台終わりの楽屋
まだ焦燥の様子がうかがえるジョン。道具も衣装も放ったらかしにして紫の毛足ふわふわのニットに着替える。
「なんてこった」と、追い討ちになりかねないような言葉を繰り返し呟きながら入ってきて、ジョンに関係ない話を振るロバート。
「新しいセーター?」「何だい、それ」
ロバートの取った”態度”の裏の思いとは?と考えながら、10場、12場ではジョンがロバートの脱ぎ散らかしを片付けていたのに対し、ロバートがジョンの放置した衣装と小道具を片付ける。
まるで音楽のカノンのように繰り返す日々。
「はっ?」「さぁ」訴えようのない気持ちが詰まった表情のまま、まともに受け応えしないで出て行ってしまうジョン。衣装を片付けるロバートの姿が、まるで父親のように見えた。
第三回更新はここまで。
超個人的意見が反映された感想をお読みくださってありがとうございます。
第四回はいよいよ舞台も終わりに近づき…。
2人の今後は? - つづく -