父との乾杯
乾杯にまつわる忘れられない日がある。
初めて父とお酒を飲みに行った日だ。
私は大学進学と同時に、田舎から上京してきた。
親元を離れ、毎日が自由で楽しかった。そしてサークルに入り、大量にお酒を飲むようになった。
大学生が飲むお酒は、質より量で安いもの。特によく飲んだブラックニッカは思い出しただけで吐きそうになる。
1度吐いたことがあるお酒は飲むのに抵抗ができるようだ。
それでも楽しくて、美味しくないのに飲んでは吐くの繰り返し。これにお金と時間を費やす日々。
何回目かの帰省の時、父とふたりで日本酒をペアリングで飲める寿司屋に行った。
久しぶりの再会と、父と初めてお酒を飲むのがなんだかこそばゆくて、照れながら「乾杯」と言ったのを覚えている。
私と父は食の趣味がピッタリ合う。DNAを目いっぱい受け継いで産まれてきたのが実感できる。
美味しい海鮮を食べながら、少しずつ日本酒を飲み、東京でのことや思い出話で盛り上がった。
父との会話では、
「私がやりたいことを絶対に否定しない父のおかげで、今まで後悔しないで生きてこれた。」
「ミーハーで好奇心旺盛な父に似て、私も大学でいろいろなことに挑戦している。」
と、伝えた。父は目に笑いジワを寄せながら「そうか」と嬉しそうだった。
父も「一緒に乾杯できる日が来るなんてなぁ…」と感慨深そうに喜んでくれた。
なんとなく親孝行できたかなと思った。
一気飲みが得意な私は、この日、丁寧に丁寧に味わって飲んだ。本当に美味しかった。
あと何回父とお酒が飲めるか分からないが、ずっと健康で長生きして欲しい。できることなら月に一度は会いたい。
しかしなかなか会えないからこそ、話は積もり、ご飯とお酒が美味しい。
これからも父との乾杯の時間を大切にしたい。