【第1話】6歳の『わたし』フランスに到着
(この作品は、実際に私が幼少期を過ごしたフランスでの思い出を、小説風にアレンジして書いたものです。)
1991年、1月20日。
荷物受け取り場のベルトコンベアーの前で、わたしはボーッと立ちすくしていた。長いフライトに疲れていたわたしには、一定のスピードで静かに回るベルトコンベアーを眺めるのがなんだか心地よかった。父は忙しく私たちのスーツケースを回収している。母はまだ幼い弟と一緒に近くのベンチに座っていた。大きなお腹を摩りながら、疲れた表情をしている。2人の妹は機内でゆっくり寝れたからだろうか、ピンピンしていて、広い構内を走り回ってはしゃいでいる。
大変そうな父をどう助けたらいいか分からず、うるさくはしゃぐ妹たちをおとなしくさせる術も分からず、ただ突っ立っているだけのわたし。やがて荷物を回収し終わった人たちが向かう自動ドアに気付く。開いては閉じ、開いては閉じるドアの向こうにたくさんの人たちがいて、こちらに向かって手を振っている。誰に向かって手を振っているんだろうと、他人事のように眺めていたら、母が立ち上がって出口に向かって手を振った。自動ドアは閉じ、人が出るとまた開く。その度にまた手を振ってくる人たち。ざっと6〜7人くらいだろうか。全員満面の笑みでこちらに向かってブンブン手を振っている。お母さんの知り合いかな?
彼らが全員わたしの親戚だと教えられたのは、自動ドアの向こうに出てみんなで歩き出した時。「この人はおばあちゃんだよ」「こっちはおじちゃんだよ」と母が必死に説明する。大混雑の空港の中をおしくら饅頭のように肩を寄せ合って前に進みながら、わたしは大きい大人たちの顔を交互に見めて母の説明についていこうとした。あんなにはしゃいでいた妹達はすっかり大人しくなっていて、父と母にピタッとくっついて、ただ前を見ながら一生懸命歩いている。わたし達に会えた喜びを表現しているんだろうか、親戚たちは全く分からない言葉で次々をわたしに話しかけてくる。何も理解できないけど、親戚だと聞いただけでどこかホッとしている自分がいる。長旅で疲れた上に、ここはどんな場所で、これからどうなるんだろうと不安だったわたしには、優しそうな人たちが迎えにきてくれたという事実が安心感を与えてくれた。
家族6人(もうすぐ7人)での大移動。初めて上陸する母の国。
車に乗り込んだら、わたしはすぐにウトウトし始めた。母が優しく頭を撫でてくれて、あっという間に眠りについた。
わたしのフランス生活。家族みんな一緒だし、きっと楽しくなる。きっと。
(つづく)
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