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トップアスリートの見事な身の処し方

フィギュアスケートにそれほど興味はないけれど、羽生結弦という存在にはずっと関心がありました。演技が終わると無数のプーさんのぬいぐるみがリンクに投げ込まれ、それらに囲まれて結果を待つ愛くるしい表情を見せるかと思えば、スマートな容姿には似つかわしくない闘争心むき出しの彼。そしてインタビューでは、常に自分を客観的に分析し、決して傲りは感じられない。私には一言では言い尽くせない、とても奥の深い人物と映っていました。10歳台の頃から大人びていて、あらゆるアスリートの中でも独特な存在感を醸し出す。連覇を達成した平昌オリンピックでの演技を終えたときには、全身に鳥肌が立ったことを記憶しています。

そんな彼が区切りの記者会見を行いました。おそらく彼が強調したかったのは、今後競技会には出場しないものの、決して引退ではなく、これからもアスリートとして理想のフィギュアスケートを追い求めるということ。より高いステージで、より上手く、より強くなりたいと、決意表明をされたのです。一部報道が先走り、『引退会見』と報じたことへの静かな抗議のようでもありました。

「僕にとって羽生結弦という存在は常に重荷であった」という言葉は、ひと際印象深く残りました。押しも押されぬトップアスリートとしての苦悩を正直に語るところが、いかにも彼らしいなと感じたものです。

一旦は「平昌オリンピックでの連覇を区切り」とも考えたけれど、色々と考え改めた結果、その後の年月が自分を成長させることになった。フィギュアスケート競技のピーク年齢ともいわれる23歳で再び金メダルを獲得。一般的にはピークを超えたといわれるその後の4年間で、4回転半への挑戦も含めて、もっと上手くなった自分を実感することができたことが、これからのアスリートとしての明確な目標が固まったといった趣旨の発言も。

余談ですが、ネットのニュースでは早くもニュースキャスターに触手を伸ばす動きがあることが報じられていました。彼が今後どんな人生を歩むのか、決めるのは彼自身なのは承知の上で、そんな彼はあまり見たくないなと率直に感じました。

プロとして演技するアイスショーで、より上手く、より強く、より美しくなった彼を見たいものです。これまでアイスショーなどは観たことがありませんが、そんなショーならぜひとも観たいものだと思っています。これからの彼にも大いに期待できる、トップアスリートとしての見事な身の処し方でした。

写真:熊本日日新聞朝刊(2022年7月20日付)より

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