遺棄か?安置か?~技能実習生の孤立出産事件
2020年11月15日、熊本県芦北町のみかん農園で働いていた21歳の技能実習生が双子の赤ちゃんを死産しました。たった一人で、誰にも言えず死産した双子の赤ちゃんの遺体をめぐり、その後、彼女は逮捕され、熊本地方検察庁は死体遺棄罪で起訴、熊本地方裁判所では有罪判決を言い渡しました。控訴したものの高裁でも懲役8カ月、執行猶予3年と判定。2022年1月には、最高裁ヘ上告しています。
熊本県内で起きたこの事件を皆さんはご存知ですか?
https://www.refugee.or.jp/fukuzatsu/hirokimochizuki08
この事件の詳細を承知しているわけではありませんが、その女性は、孤立出産~死産後に、段ボール箱の底に白いタオルを敷き、双子の遺体を入れ、青いタオルを上からかけ、謝罪と祈りのことばを書いた紙と一緒に、部屋の棚の上に置いたとのこと。
それが死体遺棄にあたるのか?
安置ではないのか?
この記事を読んで、あらためて色んなことを考えさせられました。
① 孤立出産での死産は、どこから死体遺棄にあたるのか?
② なぜ彼女の妊娠出産に誰も気が付かなかったのか?
③ なぜ彼女は救いを求める声を上げられなかったのか?
④ 技能実習生に対する相談体制はどうなっていたのか?
芦北町は不知火(デコポン)の産地で良質な柑橘類がたくさん採れる地域です。一方では、長期間放置され荒れ果てたみかん畑が、あちらこちらに点在していることも事実。若者がこの地を離れ、高齢化が進み、深刻な担い手不足を補うために技能実習生に頼るのは、ここだけの話ではありません。技能実習生と思しき人たちが、朝夕に集団で自転車で移動する様子は、農業地帯や工場周辺では見慣れた光景になっています。
2020年6月末現在の在留外国人数288万5,904人、内技能実習生402,422人
コロナ禍でなければもっと多くの外国人が国内に居住し、農業に限らず、労働力不足を補うべく技能実習生として働いていたでしょう。そんな人たちを誰がサポートするのか?直接的には仲介役となる団体や受け入れ先なのでしょうが、『外国人技能実習機構』という組織が技能実習計画の認定や監理団体・実習実施者への実地検査、技能実習生の相談対応・援助・保護などを担うことになっています。もちろん都道府県や市区町村にも相談窓口があるはず。なのに、そのほとんど機能していないが故に、民間支援団体がその隙間を埋めているのが現実です。
そして、このような問題が起きると、必ずといっていいほど「周知が不足していた」となります。確かに、法務省や厚生労働省から実習実施者や監理団体宛に発出されている文書には「婚姻、妊娠、出産等を理由として解雇その他の不利益な取扱いをすることは認められません」「技能実習生の私生活の自由を不当に制限することは(中略)禁止されています」と書かれています。だから「妊娠したとわかったら遠慮なく相談してくれればよかったのに」と。ところが実態は「妊娠すれば帰国させられる」のが常識。このような問題がなくならないのは周知不足ではなく、技能実習生を単なる労働力としか見ていないから、という指摘の方が、残念ながら現実を言い当てているのでしょう。
孤立出産に関しては、『こうのとりのゆりかご』のケースでも、自宅や車中などでの危険な孤立出産の割合が高いことが明らかになっており、8年前には、死産した赤ちゃんがゆりかごに入れられたケースもありました。誰にも知られずに一人で出産し、死産した後の行いが遺棄にあたるのか、どうすれば罪には問われなかったのか、司法の最終判断に注目したいと思います。
技能実習生のこんな現実にも向き合いながら、なにが彼女をここまで孤立させたのか、そして双子の赤ちゃんの命を救う術はなかったのか、人の命や心を大切にする私たちの地域社会のあり様を考える必要があるのだと思いました。