持続可能な地域社会を築く基盤は『想い』
アサリの産地偽装問題はハマグリにまで影響が出ているようです。熊本県産ハマグリの返品が相次ぎ、入札も中止になったことが報じられていました。熊本でアサリと聞いてもピンと来ない人が多かったと思いますが、おそらくハマグリはそれ以上でしょうね。私が生まれ育ったのは中山間地域と行ってもいいような山の中ですが、父の実家は有明海の沿岸部、漁業の盛んな地域で、子どもの頃は貝掘りに連れて行ってもらうのが楽しみでした。
当時と比較すると、砂地から厚く積もった泥土へと干潟の環境はかなり変わり、次第に貝も採れなくなっていきました。熊本県産のハマグリは1974年には5,855トン採れていたものが100トン程度にまで落ち込み、2012年にはハマグリが絶滅危惧種Ⅱ類として環境省レッドリストに指定されました。
一方で、先日も紹介したように、漁業に携わる人々は『何とか豊穣の海を取り戻そうとする懸命な動き』を続けています。それはアサリに限らずハマグリも同様で、干潟への覆砂や澪筋(みおすじ)のしゅんせつ、稚貝の生息状況の調査、一定の大きさ以上のハマグリしか採らないという資源管理の徹底等々。ハマグリといえば桑名なのかもしれませんが、実は熊本でもハマグリが採れるという『ギャップ』を生かして熊本ブランドとして売り込もうと試行錯誤もしていました。それだけに、一日も早い信頼回復が待たれるところです。
今日の地元紙には「なぜアサリが採れなくなったのか、その原因を追求すべき」といった主旨の投稿が掲載されていました。ちょっと気恥ずかしいのですが、皆さんは「山は海の恋人」という言葉を聞いたことありますか?山と海とは川を通じてつながっていて、山から運ばれた栄養分が魚貝類の成育によい影響を与えるというもの。山と海とはまさに一体であるという考え方です。私は、その考えを実践しようとするNPO団体『天明水の会』にも所属しています。
有明海の漁場の異変に危機感を覚えた漁民たちが、緑川の上流域で植林し、海の恵みを取り戻そうとするものです。ノリ養殖の支柱で竹炭を作ったり、河川敷のイベントで貝汁を振る舞うこともあります。実際の効果はわずかなのかもしれませんが、継続的に20年以上、そして次世代を担う子どもたちを巻き込んでの活動は、とても尊いものであると思っています。
アサリの産地偽装問題を受けて、これから信頼回復にむけたさまざまな取り組みが行われることと思いますが、足もとで故郷の山や海を守る気持ちをもっと広めていくことが、地味な動きかもしれませんが、必ずや持続可能な地域社会を築く基盤になると信じています。