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映画『PLAN75』が描き出す現代の課題

映画を鑑賞した後、こんなに暗い気持ちになったのは初めてかもしれません。劇場を出る際の足取りはとても重たく、テンションを通常モードに戻すのに結構時間がかかりました。そして、他の人に薦めようとは決して思わない…… 私にとってはそんな映画でした。

第75回カンヌ国際映画祭でカメラドール特別賞を受賞した『PLAN75』。映画の中での『PLAN75』という制度は、75歳以上の高齢者に死を選ぶ権利を保障し、死ぬことを支援すること。

「そんなことはあり得ない」と思いつつも、長編映画初作品で監督と演出を務められた早川千絵さんの研ぎ澄まされた感性と、主演の倍賞千恵子さんの圧倒的な演技力もあって、いつの間にか「現実の世界でも起こり得るのではないか」そんな恐怖心を抱きながら観てしまいました。

早川監督は「自己責任という言葉を耳にするようになり、社会的に弱い立場にいる人への風あたりが強くなってきている」、「あるときから75歳以上は後期高齢者と呼ばれるようになり、人生の最後の最後ですよ、と言われているような気がして、とても嫌な気持ちがした」と語っています。

その後期高齢者医療制度は2008(平成20)年4月にスタートしています。

「本制度は、国民の高齢期における適切な医療の確保を図るため、医療費の適正化を推進するための計画の作成及び保険者による健康診査等の実施に関する措置を講ずるとともに、高齢者の医療について、国民の共同連帯の理念等に基づき、前期高齢者に係る保険者間の費用負担の調整、後期高齢者に対する適切な医療の給付等を行うために必要な制度を設け、もって国民保健の向上及び高齢者の福祉の増進を図ることを目的とする『高齢者のみ医療の確保に関する法律(第1条)』」

当時、私は熊本県での責任ある立場にいましたが、確かに、高齢者を前期と後期に分けること、高齢者の自己負担の導入も含めて、かなり強い反対の声が上がりました。名称については、政府は一旦『長寿医療制度』という通称を使うように指示しましたが、指示した当初からもあまり使われることなく、現在ではほとんど聞かれなくなりました。その制度自体は、14年が過ぎ、定着してきたと言えるのかもしれません。

もしも75歳で区切られた後期高齢者医療制度の先に『PLAN75』があるとするならば、こんなに怖いことはありません。私だって、そんなに遠くない将来、到達することになります。

映画では『PLAN75』という制度に、当たり前のこととして携わっていた若者たちが、あることをきっかけに疑問を抱くようになるという設定。そこに希望を見出せるのかもしれません。無関心がとんでもない未来を招く原因になりかねませんし、その意味では、後期高齢者医療制度に疑問を持ち、現在の社会に警鐘を鳴らしてくれた監督には、感謝しなければいけないのだと考えを改めました。

誰にでもは薦めないものの、若い世代には観ておいてほしい作品です。

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