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終の棲家を考える

あなたはどこで最期を迎えたいですか?

多くの人が「住み慣れた我が家で」と答えるのではないでしょうか。少し前の厚生労働省のデータでは、2016年の日本人の平均寿命は男性で80.98歳、女性で87.14歳となっており、2060年には日本人女性の平均寿命は90歳を超えると予想されています。一方で、介護が必要になったり、寝たきりになったりせずに、健やかに日常生活を送れる期間を指す『健康寿命』は、男性で72.14歳、女性で74.79歳。平均寿命と健康寿命の差が、男性で8.84年、女性で12.35年。この間をどこで過ごすのか、どう生きるのかが問題になります。

先日、卒寿を迎えられた高校の大先輩から相談を受けたこともあり、地域包括支援センターで『高齢者住宅ガイド』を数冊入手してきました。ページを開いてみると、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅、ケアハウス、その他高齢者住宅など、それぞれの分類ごとにたくさんの物件が紹介されています。これでは「さすがに迷うだろうな」と、あらためて先輩の悩みが理解できたように思いました。

同じく厚生労働省の調査によると、自宅で最期を迎えることを希望する人は54.6%(男性 62.4%、女性 48.2%)。次いで「病院などの医療施設」が 27.7%,「特別養護老人ホームなどの福祉施設」は 4.5%,「高齢者向けのケア付き住宅」は 4.1%などとなっています。

同省が公表している国民が死亡した場所をみると、病院・診療所が80.8%、自宅が12.4%、介護老人保健施設・老人ホームが4.3%、その他が2.4%となっています。調査の時点が少しずつ異なるものの、「希望と現実の大きなギャップ」をうかがい知ることができます。

私は一度、ある『ホームホスピス』を訪れたことがあります。そこは、空き家になった農家を改修したもので、できる限りのバリアフリーなどは施されていましたが、間取りなど基本的には以前のまま。中に入ると、ふすまで区切られた部屋ごとに高齢者のプライベート空間があり、例えば介護のためにご家族が一緒に泊まることも可能だそうです。

食事の時間が近づくと、台所で料理する音が聞こえてきて、味噌汁などの香りが漂ってきます。病院や施設などに特有の薬品や消毒の匂いもなく、まるで自宅に居るかのような錯覚を覚えました。野菜は近所の農家の方が持ち寄られたもの。たとえ徘徊したとしても、すぐにご近所さんが連れ戻してくれるとも聞き、すっかり地域に溶け込んで『ホームホスピス』を営んでおられました。

高齢になって病いを患ったり、思わぬ障害とつきあうことになった時でも、自宅に限りなく近い環境で、最期の瞬間まで安心して過ごせる居場所。その時間がたとえわずかであっても、その人らしい生活が尊重される、その人にとって安心できる居場所。訪れた『ホームホスピス』は、そんな居場所でした。

介護制度に定められたものではなく、希望する人すべてが入居できるわけではありませんが、「在宅か?施設か?」の二者択一ではない、もう一つの選択肢があることを嬉しく感じたものです。

最終的には、専門家のアドバイスを求めることになるのでしょうが、できるだけ先輩の不安や悩みに耳を傾けて、安心できる居場所探しのお手伝いができればと思っています。

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