急げ!シングルマザーの自立支援
「先を越されてしまったな~」
率直にそう感じました。福岡市では、『特定妊婦』らを対象にした、妊娠期から自立までの切れ目ない支援を目指した支援施設を開設することを公表しました。『特定妊婦』とは若年妊娠や予期せぬ妊娠、貧困といった問題を抱え、出産前からの支援を必要とする妊婦のことです。
熊本市西区の慈恵病院では、2007年から『こうのとりのゆりかご』(以下、ゆりかご)という、匿名でも赤ちゃんを預けることの可能な施設を運営しており、昨年度までで159人の預け入れが報告されています。『ゆりかご』の存在意義は、究極的には尊い命を救うことにありますが、『ゆりかご』という象徴的な存在を通して、『特定妊婦』のような孤立した女性自身が、相談窓口や受け入れ先があることを知り、そこにたどり着いて救われることにもあるのです。
実際に慈恵病院には年間5〜6千件の相談があり、個別に対応されています。もちろん行政が設置する相談窓口もあるのですが、敷居が高いのか、あるいは使いづらいのか、件数としては慈恵病院に比べればほんの僅かといった状況が続いています。
私はその『ゆりかご』の設置を許可したときの熊本市長でした。許可することを公表した直後の記者会見で「許可はするものの使われない方が望ましい」と、ある意味では『矛盾』と受け止められかねない発言をしました。それは、子どもの命を守るとともに、思いがけない妊娠でひとり悩みを抱え込む女性を救いたい、そんな思いからでもありました。
『ゆりかご』開設から14年が過ぎました。開設直後から設置された検証会議では、実際に預け入れられたケースや、行政機関や慈恵病院等に寄せられた相談内容などを分析し、その結果を公表してきました。それは『ゆりかご』の要らない社会を目指すためのものでもありました。
福岡市の取り組みの詳細は承知していませんが、新聞記事を読む限り、『ゆりかご』を運営してきた熊本でこそ取り組まなければならなかったのでは、そんな気持ちが湧いてきたのです。
熊本市では今、先述の検証会議でも必要性が認められた『内密出産制度』をどうするのか、国も交えた行政と病院とのにらみ合いが続いている状況です。そのような間にも、悩みを抱えた女性は増え続け、幼い命が危険にさらされています。にらみ合っている場合ではなく、後先も関係なく、福岡市の先進的な取り組みに熊本市などが習い、熊本市が蓄積してきたものを福岡市などと共有し、それらを全国に広げていくことが、まさに今、求められています。考えている時間はとうに過ぎ、行動に移す段階に来ているのだと思います。