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おうち時間で“VR”を始めて一年
日本でも新型コロナウイルスが流行り始めて一年。地方へも一気に広がりを見せ、自分も他人事では済まされないと思うようになった。
2020年、青森県での「地域おこし協力隊」の活動は三年目に入り、地域とのつながりや地盤づくりを終えていよいよ自分自身の持ち味を発揮するべき時だと感じていた。病魔への対策の重要な一手として浮かび上がったキーワードは【オンライン】。すなわち家を出ることなく、人との接触を控えたままコミュニケーションを行うこと。その実践を振り返ります。
前職のITの現場で得た知識を活かす
誰かの役に立つために、前職までの経験で得たWEB周りのスキルを活かすなら今しかない。今までのように自らのためや仕事のためにスキルを行使するのではなく。そう思って作ったのは、地域内の飲食店が展開し始めたテイクアウト実施店をリストで見ることのできるアプリ「平川市テイクアウトごはん」。
このアプリを作る上で決めたことは、
①感染拡大予防のため、直接の取材はしないこと
②情報はSNSにてユーザーから集めること
これにより感染リスクを減らしつつ、住民への飲食テイクアウト情報の道を作った。情報は主にインターネット検索で分かる範囲のことと、Twitter等でハッシュタグ「#平川市テイクアウトごはん」で収集している。
SNSを通じて情報提供を呼びかける事で私自身の手間の軽減と、住民が主体的にかつ楽しみながらリストを作っていけるよう配慮した。
“VR”は地方でどのように役立つのか
丁度その頃、当初より活用を検討していたVR機材の設置を終えた。しかし、上記のことからオンライン技術の活用に手ごたえを得たものの「VR」をどのように活かすのか、その方向性は見出せていなかった。ヒントを探してみるも、青森県内ではほとんど前例がなかった。
まずは自分のレベルで扱えるVRにはどんなサービス、ツールがあるのか調べるところから始まり、とりあえず自らの環境ですぐ使えそうなのはclusterのイベント機能であるとみた。
まずはその練習がてら実践していこうということで、かねてより要望のあった「写真の構図の考え方」的な中身の勉強会を開催。勉強会といっても自分の知っていることと実践履歴を見せるだけ。
▲イベント当日の風景。限定公開で、いつもお世話になっている地元の情報発信に関わっている方々をお招きしました。各自がアバターを持って一つの場所に集まる、という体験が印象深かった様子。
▲スライドより抜粋。写真の構図の考え方の基礎を自分の作品と併せてシェア。ワークショップではTwitterで「#かわしぃフォト」のハッシュタグで投稿してもらい、その場で講評。(というより僕が一方的に感想を言うだけw)ゆる~くわいわいと終えた。(VR内での撮影にも活かせる内容なので、またやる??ご要望はDMへ。)
やはり、参加者にとっては「アバター」の存在が良かったのか、日常的に使われるようになってきたZOOM等の会議システムとは違い、お互いの存在を知覚しつつもカメラを使わないことで気持ちにゆとりをもって参加できた模様。
バーチャルワールドと地域(リアルワールド)
その勉強会の少し前にclusterはワールド機能・ゲーム機能をリリース。自作のVR空間をユーザーが自由にアップロードし公開できるようになっていた。このバーチャルワールドを現実に影響を与える手段として使えそうだと考えた筆者はがむしゃらにドキュメントを読み漁り、どうにかclusterへのワールドのアップロード方法を理解。
モデリングはGoogleのVRアート制作アプリTiltBrushを使用。当時Twitterで話題になっていた平川市の柏農高校前駅の風景をモチーフとして制作。なんのギミックもないし、作り込みもしていないけれど、とにかく自分の目で自作のバーチャルワールドを見てみたい一心で即公開。
ワールドのアップロードに使うUnityの理解が足りず、あちこち穴ぼこだらけだけれど、実際にVR機器を用いて自分が描いた世界の中に入るという体験を得た。
それは今も忘れない、言葉にならない体験だった。
誰かと共有したくとも、地方にとっては新しすぎることをしている自覚はあったし、ワールドの制作方法もそのコンセプトも珍しいことをしているだけに、その昂る気持ちを誰かに伝えることは諦めた。
かわりに、「手描き」かつ「リアルとひとつづき」なワールド制作を続けながら、自分が心を惹かれた地方の風景をバーチャルワールドとして描き続けた。
ワールドとして制作したもの以外にも、TiltBrush作品を作っていて、メイキングはYouTubeチャンネルのほうに随時アップしています。(気が向いたときに)
自作のバーチャルワールドを使った大規模イベントの開催
青森県ではいつもの年と一変し、リアルの大きなイベントは全て中止。日本を代表する桜の名所のひとつ、弘前城を有する弘前市が桜まつりの中止を決めたことを皮切りに、青森市のねぶた祭りに弘前市のねぷた祭り、筆者の住む平川市のねぷた祭りも…次々と中止を発表。県知事の涙ながらの会見の様子はできれば思い出したくないな。それだけ青森県民が「祭り」にかける想いが愛が脈々と続いてきた事を感じていた。
そのニュースを受け、筆者はその想いを受け止められる何かができないかと思案。
しかし、私は救世主でもなければ天才でもない。出来ることしかできないわけなのだ。
コロナ禍において私が出来るようになったこと。
VRアートを描くこと。
clusterのワールドとして公開すること。
これだけなのだ。
ということで早速作ったのがこちらの「バーチャル猿賀公園」だ。
夏にclusterで開催された「clusterGAMEJAM2020 in Summer 」に参加する形で制作した。テーマは『ソーシャル』。
コロナ禍ですっかりやりづらくなってしまったコミュニティ形成と、里帰りなどの機会の再生を願って実在する場を再現することでテーマに応え得るものとした。
(残念ながら初のGAMEJAM参加は時間オーバーにより審査対象にはならなかったけど…作品はちゃんと残ったのでオッケーとした🙆♂️)
GAMEJAM終了後、ワールドを歩いていた時に出会ったのが津軽でVTuber活動をしている「東方いなか」さん。
津軽を舞台としたバーチャルコンテンツを発信したいということで筆者と意気投合、即決でこのワールドを使ってイベントをする事を決めた。
それから3週間弱でワールドの整備を進め、企画およびキャスティング等は東方さんが担当してくれた。
かなり突貫工事ではあったが、本番は大きなトラブルもなく無事に開催することができた。
出演者の皆さんの宣伝活動のおかげもあって、当日は約2時間で308名の参加者が集まった。青森県内で活動しているVTuberやTwitterで地域の情報発信活動をされている皆さんと一緒に、青森県各地の魅力を今風の形でPRできたと思う。
ゲストとして参加してくれた自転車VTuberのとぅーらさんは、なんと翌日にイベント会場として使った猿賀公園(現実)に来てくれた。
昨日バーチャルで見た場所に、リアルで来るという不思議体験。#バーチャルみちのく納涼祭 pic.twitter.com/PicCrxAm2A
— とぅーら🚴 (@tura_4000) August 22, 2020
こんなに嬉しいことはなかった。
他にも…イベントを通じて青森県の雰囲気がわかったとか、コロナが落ち着いたら是非行ってみたいとか。そんな言葉をTwitterで見かけた。本当にありがたいことだ。この状況下で「バーチャル」という技術を介して帰省をしたり新たな関係人口を生み出したりする事が、地域おこし協力隊としての私の目的の一つでもあった。それがこうして多くの人の手によって実現されたことは紛れもない事実だ。改めて、このイベントを支えてくれた全ての方に御礼を申し上げたい。そしてこのイベントを開催できる地盤を作ってくれたclusterの皆様にも感謝を伝えたいと思う。
初のVRワールド制作の依頼も
その実績を評価されてか、2021年2月には弘前市でのクラウドファンディング企画「冬に咲くさくらライトアップ」に参加することに。依頼内容はライトアップ会場に来られない人向けのコンテンツ造成ということで、例によってclusterを用いてライトアップのVR会場を制作。メイキングはYouTubeで配信を行った。
VR会場を訪れた人の中には弘前にゆかりのあるかたの姿もあったようで。たくさんの反響がありました。
#冬に咲くさくらライトアップ VR会場も、リアル会場とともに一旦閉幕しました。制作を含めた1ヶ月間、あっという間でしたが延べ1400を超えるアクセスがありました。1人でも多くの人に青森の空気感を届けることができたなら、嬉しく思います。
— かわしぃ@ローカル電脳VRアート🎨戦士 (@s_kawasy) March 1, 2021
ご依頼くださった @S23FS さんにも感謝を!🌸 pic.twitter.com/tcBWAuYpNd
聖地巡礼#かわしぃVR #冬に咲くさくらライトアップ #cluster #弘前さくらまつり pic.twitter.com/cP5gmQHHxp
— なめこ (@Yin510) April 16, 2021
VR界隈で活動する上で自分に足りないもの
上記イベントは地元新聞にも取り上げられ、大きな話題にもなった。が、一方で自分の技術の足りなさを思い知らされる事ともなり、より一層スキル習得が急がれる事を感じた。
一つはモデリング技術。
今まではTiltBrushに頼っていたため、アート的表現を得る代わりに3Dモデリングとしては効率を度外視していた。これからは表現したいイメージをより良く表現するとともにユーザー体験向上のためにもblender等の専門ツールの扱いを習得する必要がある。
もう一つはUnityの理解。
clusterをはじめ、VRプラットフォームへのデータを作るにはUnityというツールからは避けられない。clusterの場合は、その操作に関わる膨大な情報量をかなり単純化した?ClusterCreatorKitというものを用意してくれているため、頭の弱い筆者でもなんとか扱うことができた。が、この先clusterだけではなくその他のプラットフォームの利用も考えなければならなくなるだろう。よって一刻も早くUnityとの和解が求められるのだ。
さらにもう一つ。
VRを体験したことのない人に、その良さを伝える術を持つこと。
これが一番厄介だ。とりあえずOculus Questを常に持ち歩いて、好きあらば知り合いに被せまくっているけど…。いまいちクリティカルヒットせず、clusterのようなバーチャルSNSへの導入にほとんど至らない。インターネット文化すら浸透しきっていない地方都市なら尚更だ。ここはりんご県おんせん市だ!ぶっちゃけネットに頼らなくても魅力が溢れすぎているのだ!けしからん!(褒めてる)
ともかく、VR普及のクリティカルヒットを生み出す手段がほしい。誰か教えて。←イマココ
これからもclusterでがんばります
この3月で地域おこし協力隊としての仕事は終わり、これからはフリーランスのクリエイターとして生きる事を決めました。得意のWebや写真、DTPとかに加えてこれからはVRクリエイター、イベンターとして…
いや、デジタルなんでもやさんを目指してがんばります!皆さんが求めているような飛びきりヘンなイベントも(気が向けば)やりますので乞うご期待。
なお、BOOTHにもお店があるのでcluster用アイテムも含めて色々置いてます。こちらもよろしく。ちなみにお店の名前は筆者のコスプレ活動用の名前が元になっています。中身はかわしぃですのでご安心?ください。警戒してもいいよ。