笑って泣いて、あこがれて
なんてことない日常のはずなのに、面白くて、笑えて。
特別なことなんて起きてないのに惹きつけられて、読むのが止まらなくて、子どもにも読みやすくて。
読み終わると不思議と元気が出てきて、人生って結構楽しいかも、なんて気分になっている。
それは、「日常の機微をみつける」とかそんな生易しい言葉では言い表せないほどの才能であり能力であるのだと思う。
私にとって初めてのエッセイは『もものかんづめ』だった。
自分がnoteにぽつりぽつりと文章を書くようになり、どちらかというとほっこり系エッセイがニーズがあるのかな、と気付きはじめたとき、そうだ、お手本にするなら、目指すとするなら、さくらももこさんのような文章を書けるようになりたいなと思った。
実は今でもエッセイというものがよくわからない。
けれど、拠り所はあの読後感で、さくらももこさんは、いつか見たいサグラダファミリア、一度くらい登りたい富士山頂、いつか立ちたいマチュピチュ遺跡、ようするに、憧れだった。
***
そのさくらももこさんがお亡くなりになってしまった。
著名人の訃報ではじめて本当に涙が出た。
会ったこともないのに、とてもさみしくて、悲しくて、私にとってさくらももこさんは、ただ生きていてくれるだけで嬉しい存在だったようだ。
さくらももこさんといえば、『永沢君』だ。
『ちびまる子ちゃん』も何度も何度も読んだしエッセイも好きだけど、私にとってさくらももこといえば『永沢君』なのだ。
そう、あのちびまる子ちゃんに出てくる玉ねぎ頭のニヒルな少年。
彼が成長したスピンオフ作品が『永沢君』で、これがもう最高なのだ。
何度読んでもゲラゲラ笑えて、呼吸が苦しくなるほど。
最高に面白いので是非読んでほしい。
もちろんちびまる子ちゃんにも思い出は沢山ある。
適当でのんびりしてて屁理屈がうまくて、いい意味で子どもっぽくてでも物言いが妙に年寄りくさかったりもして、かわいい。
キラキラした絵が並ぶりぼんの中で異色だったけれどいつ読んでも面白かった。
実はなかよし派だったからりぼんはたまにしか買わなかったけど……。
ちびまる子ちゃんはいつも本棚に指定席があって、本当に何度も読んだ。特に夏と冬になると読みたくなる。
たぶん、冒頭、夏休みに入る話から始まるからだ。大荷物で汗を流しながらえっさほいさと歩くまる子の後ろ姿がうかぶ。
なぜかクラス中で わたしのばっかり
のびきったラーメンのように
ずうずうしく
成長してしまった
のびきったラーメンのように、ずうずうしく。
そう、このヘチマの表現が好きだった。
それと寒くて少しさみしい季節によい作品だったのだと思う。
単行本に収められている作品について、断片的な記憶がいくつかある。
お姉ちゃんの「好きなひとに好きになってもらえなきゃ意味がない」的な台詞があったな。当時私にはその意味がわからなくて、でもわかるようで、いつかわかりたいと思った。
それから何かの話で主人公がお風呂場でひっそり泣くシーンがあって、心情はわかるようなわからないような感じだったのになぜか私も毎回一緒に泣いて、それ以来こっそり泣くならお風呂場になった。
涙か汗かシャワーの雫かわからない水にまみれて、最後はきれいさっぱりほかほかして出れるからいい。でも足の裏にかなしみはひっついている。そういうのを教えてくれた。
あとはゴキブリが出る話の共感性がやばかったとか、岡田あーみんとのコラボが無茶苦茶笑えたとか、花輪くん家のトイレが広くてやばいとか、友蔵は良いとか、ローラースルーゴーゴーとかイルカに乗った少年とか、ああ、どんどん、どんどん出てくる。
確かさくらももこさんが就職して、でもすぐ居眠りが原因でクビになっていて、「あ、こんな感じでも生きていけるんだ」「こんな大人もいるんだ」と、幼い私は目から鱗、救われたというか新鮮というか、とにかくそんな気持ちになったりした。
ずっと漫画家のイメージでいたけれど、母が何かを読みながらゲッラゲラ笑っているなと思っていたら『もものかんづめ』で、きっと読めると思うからと、私も薦められて読んだ。
面白かった。
ちびまる子ちゃんで知っている人々を、もう少し生々しく、リアルに描いていて、読みながらひんやりとした人の生の肌に触れているようだった。
漫画も、エッセイもすてきだった。
だめな人にやさしいというと正確ではないけど、どんな日常にもやさしかった。
そう思わなきゃやってられない。そんな面もあったのかもしれない。
本当のところはわからないけれど、おもしろく生きる力強さみたいなものをお持ちだったのかなと想像する。
私も漫画家に憧れる少女だったから、創作にまつわる話はどれも自分のことのように泣け、喜べ、心がほころんだ。
さくらももこさんが作家になってくれてよかった。
今はまださみしい気持ちが大きいけれど、落ち着いたら、また読んでガハガハ笑ってヒィヒィ転げまわって、少し泣きたい。
サポートいただけるととても嬉しいです!よろしくお願いいたします。