ロードバイクを盗まれた夫に「自転車の葬式」を提案したこと
先日、夫のロードバイクが盗まれた。
といっても、既に10万キロは乗り倒し、ぼろぼろで、もう長いこと乗っておらず、家の外に鍵もかけずに置いていたもの。
むしろ今までよく盗まれなかったものだ。
それがある朝、とうとう無くなった。
「パパの自転車、ないねぇ」
出がけに息子がそう言うたび、私もちょっと切なくなる。
もう1か月以上前のことだが、「あれ以来、なんか元気でないんだよなぁ」と夫が言う。
🚴♀️🚴♀️🚴♀️
そこで、私は提案した。
「自転車のお別れ会やる? お葬式的な」
内容はこうだ。
お寿司と天ぷらとか、ちょっと豪華な、通夜振る舞い的な食事とビールを用意する。
在りし日のロードバイクの写真を眺めながら、自転車との思い出を夫婦で語り合い、今は亡き、かの自転車への思いを飲み食いしながら昇華する。
お花を飾ってもいい。
なにしろその盗まれた自転車は、夫の初めてのロードバイクだったのだ。
コツコツお金を溜めて……とかではなく、クロスバイクに乗っていたら交通事故に遭い、その際下りた賠償金と慰謝料で買ったものだ。二度と事故には遭わないでほしい。
それはジャイアントの一番安いロードバイクで、ロードバイク乗りからみたら「うわ、やっす」という感じのエントリーモデル。
でも夫は初めての実業団レースにもこの自転車で参加し、「まわりはもっと高い自転車ばっかりなんだよ」と言いながら乗り続けた。
途中、別の自転車に乗り換えたけれども、結局盗まれるまで10年弱保有し続けていた。
もうフレームにいつヒビが入ってもおかしく無いような代物だったけれど、なかなか処分せずにいたのは、手配が面倒だっただけではないと思う。
盗まれた当初は「処分代が浮いたね」なんて言っていたが、夫は明らかに悲しそうだった。
だから、お別れ会をしよう! 元気が出ないのも無理はない、と私は本気で提案したのだが、それを聞いた夫はちょっと驚いた顔をした後、おおいに笑って「いやいや、それはいいよ」と断られてしまった。
え、ほんとに? やらなくて大丈夫? 私は本気よ?
気持ち切り替えられる? それに私、正直ちょっとお寿司食べたい気分なのよ、と思ったけれども、夫がいいと言うのでは仕方ない。私も大人しく引っ込んだ。
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そんなわけで、結局「自転車の葬式」は開催しなかった。けれど、どうやら夫の元気は戻ってきたようだ。
「通夜振る舞いといえば、茶飯だよね」
「へ? 茶飯?」
「そう、お茶入れて炊くやつ。お通夜といえば茶飯と天ぷらってイメージ」
「へぇ、静岡っぽいね。私はお寿司と煮物のイメージかな」
と、思わぬ通夜振る舞いトークで盛り上がったりもした。地域性があるのかな。
私はオタクなので、実在しない二次元の推しの誕生日を毎年祝ってはひとりでお祭り騒ぎをしたりしている。
だからなんというか、非生命体を人間のように扱うのに慣れている。抵抗がない。
日本人的感性かもしれないけれど、思いのこもったものは、こんなふうに、大切な人にするように扱うと、気持ちが晴れることもあるんじゃないだろうか。
いや結局やらなかったんですけどね。
でも本気でやろうと思ったんですよ。
ちょっとやってみたかったなぁ。
※大事な自転車は基本室内保管、外出先では地球ロック、短時間の駐車でも油断しないでくださいね。
盗まれた時は、お近くの交番で盗難届を出しましょう!
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